Portrait photography: Ulrike Frömel. Other images: Wärtsilä

スマートでサステナブルな未来をめざす製造大手バルチラ社

2020年1月

船舶と電力の分野でサステナビリティ革命を進めているフィンランドの製造大手バルチラ社。同社はデジタルソリューションの力を借りて、船舶エンジンメーカーからスマートテクノロジー企業への変貌を遂げようとしています。CIOを務めるユッカ・クンプライネン氏が、その道筋について語ります。

「名前を聞いたこともない世界一の企業」。電力・船舶システムを手がけるフィンランドの大企業、バルチラ社でCIOを務めるユッカ・クンプライネン氏は、自社について問われ、冗談めかしてそう答えます。同社は今、環境に大きなインパクトをもたらすスマートテクノロジーの先端を走る企業として業界にその名をとどろかせようとしています。

年間収益50億ユーロ、全世界の従業員数19,000名という規模を誇る同社は近年、デジタル革新により海運事業と発電事業に大きな効率化をもたらし、さらに環境に配慮したサステナビリティへの道を拓いています。データを軸にしたスマートテクノロジーへの取り組みは、これまでにない事業領域です。しかし、同社はビジネスモデルの変革に大きな実績があります。

1834年、製材所や製鉄所の経営母体としてスタートを切ったバルチラ社。20世紀半ばにはディーゼルエンジンとガソリンエンジンの製造を手がけ、さらにその後、船舶推進装置の製造や発電事業、製造オートメーションのシステム開発へとビジネスの領域を広げてきました。

現在はスマートテクノロジー事業への企業変革を進めており、スマート船舶エコシステムと 『100%再生可能エネルギー』を経営ビジョンに掲げながら、自社だけでなく地球にとって明るい未来を与えることを目標として描いています。この理想を達成するためにはビジネスモデルの変革が不可欠、とクンプライネン氏は話します。

「会社を新領域に導いていくには、大改革を避けて通ることはできません」というクンプライネン氏。『大改革』とは、産業機械メーカーからデータを軸としたテクノロジー企業への変革を意味しています。同社は船舶や発電所などのハードウェアの稼働状況をセンサーで監視し、うまく管理しながら性能と効率を高めるシステムの提供を新事業の柱にしようと考えています。




その動きを加速させているのがグローバル市場の急激な変化です。世界で新たな競合が現れ、市場崩壊が起こる前に自ら進んで従来のビジネスモデルを壊していかなければならないと同社は感じています。そこにさらに環境問題が影を落とします。エンジン開発で名を知られる会社よりむしろ地球の未来を想い、そこに力を注ぐ会社として世界に認知されたい、とクンプライネン氏は話します。

「スマートテクノロジーによってサステナブルな社会を築き、明日の世界をより良いものに変えようと頑張っている企業。それはわたしたち社員にとっても世界の人々にとっても好ましい」と彼は話します。バルチラ社はその取り組みを2つの事業領域で進めています。

海運事業はデータを軸に

ひとつは海運事業です。データを軸に船舶輸送の安全性、サステナビリティ、経済性を向上させる最新製品と統合型ソリューションを提供しています。船舶を運用する顧客の運航データを集めて解析することで、排出される廃棄物の量を最小限に抑え、さらに運航効率を高めることができます。

例えば、解析データをもとに最適な航路と入港スケジュールを算出してくれます。そのためには、さまざまなデータが判断材料として利用されるとクンプライネン氏は話します。一例として彼は食料輸送に影響を与える海水温を挙げました。




「バナナを運ぶ貨物船などの場合、温かい海域を迂回するよう薦めます。そうすることで冷蔵の費用を節約して輸送コスを下げることができます」。

電力事業で進む変革

もう一方は電力事業です。新しい電力システムの開発によって100%再生可能なエネルギーの未来を目指しており、多様な燃料に対応したフレキシブルエンジンを活用した発電所、太陽光を用いたハイブリッド発電所、エネルギー貯蔵ソリューションなどが例として挙げられます。

課題は、これまで通りの性能を保ちながら効率を上げたサービスをいかに提供するか、ということです。クンプライネン氏によれば、世界にあるバルチラ社の顧客企業が消費する電力は70ギガワットもあります。スマートテクノジーへの取り組みで、長期的な視点に立った電力調整が既に実現可能となっています。

「将来的には現在とまったく異なる電力形態が出てくるでしょう。ガソリンや天然ガスが一定の役割を果たすなか、太陽光など再生可能エネルギーの仕組みが立ち上がり、ガソリンなどとのハイブリッド活用も考えられます」とクンプライネン氏は話します。「またエネルギー貯蔵の仕組みが重要課題となります。電力消費を最適化するため、さまざまなデータを組み合わせていく必要があります」。




クンプライネン氏の率いるIT部門の役割は、先進的なデータ解析の仕組みの構築と運用にとどまりません。事業の機動力と革新を加速させる環境づくりも重要で、そのためには信頼できるパートナーの存在が欠かせません。

2019年11月、バルチラ社は、グローバルなデジタル・ワークプレイスのインフラの構築と運用に関して、富士通と契約を交わしました。この提携は働く環境を一新させ、イノベーションと柔軟性をもたらします。また、富士通はマルチ・クラウドとハイブリッドITの構築と運用のノウハウを持っており、それらを取り込むことで、同社の進めるデジタル革新に拍車がかかります。

「イノベーションの気風が根づき、事業改革に創造力を吹き込んでくれるようなパートナーを探していたとクンプライネン氏は話します。一方で彼は自社の社員をふくめ、スタートアップや信頼できる大手ベンダーから集まった多彩な人材が織りなすエコシステムの力にも期待しています。

「富士通を選んだ主な理由は、デジタル革新へのサポート力と実績に説得力があったから」と彼は話します。「重要な足がかりとなるインフラ構築をすでにはじめています。革新と新しいデジタル思考を広めるためにベースとなるプラットフォームの構築が必要です」。

時代を変えるテクノロジー

クンプライネン氏は、今後バルチラ社で大きな役割を果たすべき技術として、機械学習、AI、ブロックチェーンを挙げています。船舶と電力の事業で、同社が立ち上げていくビジネスモデルでは、予測をもとにしてシナリオを描いていく仕組みを支えるデータ解析とその活用が欠かせません。

しかし、テクノロジーは単独で成り立つものではなく、事業と複雑に絡み合っているとクンプライネン氏は考えています。将来の競争力を考える企業は、デジタル革新と事業革新を同時に推し進めることの重要性を認識している、と彼は話します。




バルチラ社のビジネス革新にとって重要な要素は3つあります。すなわち、企業の基幹システムの変革、新たなビジネスチャンスの拡大、サステナビリティに向けた取り組みを長く続けていくための事業規模の調整と転換です。この3つの変革を達成するためにテクノロジーが必要とされています。

「最新技術は不可能なことを可能にします」とクンプライネン氏は話します。「新事業の収益モデルもそうした技術が支えます。しかし、同時に私たちは、事業プロセスを変え、生産性を高め、新しいビジネスチャンスを狙いながら、そうした技術をどういうように使っていくのかということも考えていかなければなりません」。

もうひとつここで難しいのは企業文化をどう育てていくのかだと彼は指摘します。会社が変貌を遂げようとするとき、革新によって従業員のやる気を損なうわけにはいきません。

「企業文化は、変革の土台です」とクンプライネン氏は指摘します。「19,000人の従業員の働き方をどう変えていくか、ということを考えていかなければなりません。これはある意味、今とは別の世界に移っていくということです。長期的な目で見て、そのための企業文化が培われていなければ、コアシステムにせよビジネスモデルにせよ、テクノロジーの革新はうまくいきません」。

3フェーズの変革

クンプライネン氏によれば、バルチラ社の経営層は同社のデジタル革新を3つのフェーズに分けてとらえています。まず、2016年に始まった立ち上げのフェーズ、次いで加速と持続のフェーズに移行していきます。立ち上げでは変革のための事業環境を整備し、なぜ変革が必要であるのかを全社に示しました。

現在、最終フェーズにあるバルチラ社。最初の2つのフェーズをやり通した今、全従業員がデジタル革新のもたらす可能性について考える下地を身につけたとクンプライネン氏は見ています。

「社員の意識は確実に変わりました」とクンプライネン氏は話します。「4、5年前なら、昔気質のエンジンメーカーでこんなふうに技術の話ができるようになるなどとは誰も考えられませんでした。社内のさまざまな部署で立場の違う人々が集まり、技術ソリューションをどう活用し、どう開発していくのかについて真剣に話し合っています」。

• バルチラ社のユッカ・クンプライネン氏は、富士通フォーラム2019ミュンヘンに登壇。
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