Image: Oliver Holzbauer/Flickr

イノベーションカーブの先へと飛躍するFedEx

2020年8月

世界的なパンデミックの影響を受けて需要が急増したことから、グローバルに物流サービスを展開するFedExはテクノロジーロードマップの次のステージへの移行を実施しました。FedExのインターナショナルIT担当SVPであるニック・プリ氏は、危機に直面する中で、どのようにお客様への迅速な価値創造をしてきたのかについて紹介します。

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「2020年に、未来は私たちのものへ早く訪れました」と、グローバル物流企業FedExのSVPであるニック・プリ氏は話します。

そして、新型コロナウィルスのパンデミックがFedExに与えた影響について語ってくれました。パンデミックの影響を受けて、物流サービスに対する世界的な需要は想像以上に高まり、多くの消費者や企業はオンラインで商品を注文し、生活や業務を維持するためにFedExなどの物流業者を頼りにしています。

また、在宅勤務やソーシャルディスタンスが求められている時代において、これらのサービスについての期待値が著しく高まっているとプリ氏は見ています。例えば、受け取りの際、人との接触を大幅に少なくすることや、配送スケジュールの可視化を求める声が強くなっています。

「市場を通して見えてきたトレンドが急加速しました」とプリ氏は話します。「未来はおそらく2~3年早く訪れています。2023年に計画していた戦略を今すぐ実行する必要がありました。その戦略は、今でも有効ですが、更にもっと早いスピードで進めなければなりません。つまり、『跳躍:リープフロッグ』を始めなければなりませんでした」。


FedEx インターナショナルIT担当SVP ニック・プリ氏(イメージ:Mark van den Brink)



彼の 『リープフロッグ』 という言葉の選択は興味深いものがあります。ビジネスの世界では、それはスタートアップ企業や新興経済国が新しいテクノロジーを導入することによって、従来の古いテクノロジーの活用を余儀なくされている既存の競合他社よりも優位に立つというプロセスのことを指していました。

例えば、ある発展途上国では固定電話向けのインフラの整備をほぼ完全にスキップして、携帯電話を導入しています。あるいは、クレジットカードやその基盤となる決済システムが確立されていない中国のような地域で、モバイル決済によって消費者がオンラインで商品やサービスを購入できるようになっています。

プリ氏が言う『リープフロッグ』とは、FedExを加速させて未来に向かってより早く前進することです。同社は既にこの業界でイノベーションの先駆者であり、ビジネスの価値をより早く提供するために、テクノロジー導入計画の一部をスキップしようとしています。

世界経済フォーラムとグローバル経営コンサルタント会社ATカーニーによる2018年の報告書を引用し、プリ氏は次のように述べています。「リープフロッグの取り組みの多くは、テクノロジーとイノベーションの領域における差別化された競争優位から始まります。リープフロッグを検討するリーダーは、焦点を絞り、かつ継続的に技術開発とその適用をどのように進めていくのかについて、明確な方向性を出さなければなりません」。

時宜にかなったモダナイゼーション

プリ氏は、彼のチームが2017年から2019年までの2年間、社内システムの大規模なモダナイゼーションに取り組み、将来のイノベーションに向けて強固な基盤を構築してこなければ、これらは一切実現できませんでした、と述べています。

このような変革に対応するために、プリ氏はオランダのオフィスから、ヨーロッパ、アフリカ、アジアのIT業務のほぼ全てを指揮しています。同時に、FedExが2016年に44億ユーロで買収したヨーロッパの物流企業TNTとのシステム統合も指揮しています。

「モダナイゼーションのフェーズでは、主要な鍵が3つありました」 とプリ氏は話します。1つ目は、システムとビジネスの両方のプロセスの複雑さを失くすための『アーキテクチャ志向』の適用です。


FedEx:「大きくデザインし、小さく実行する」



「全体的なアーキテクチャに関しては何をするにしても、大きく考え、大きくデザインし、小さく実行するということを行っています。この考えは、3~5年後にどこを目指すのか、どこに居たいのかという大きなビジョンを掲げるということです。しかし同時に、次の10~12週間の計画が、より大きなビジョンにどのように適合するかを認識する必要があります」とプリ氏は話します。

「つまり、常に望む最終的なゴールを念頭に置いて、将来のパフォーマンス低下につながり得るテクノロジーの課題を取り除いていく必要があります」。

この文脈において、プリ氏はITアーキテクチャだけでなく、ビジネスアーキテクチャが重要だと述べています。「なぜなら、ITシステムは既存のビジネスプロセスを体系化したものになるからです。従って、ビジネスアーキテクチャを設計する際は、全てのビジネスプロセスと、それらをエンド・ツー・エンドでどのように実行させるかについて検討する必要があります」。

迅速な価値提供

包括的なモダナイゼーションの2つめのポイントは、サービス指向アーキテクチャをベースとした 「APIファースト」の戦略です。これは、FedExの基盤となるアプリケーションの多くがコンポーネント化されたサービスに分割されていることを意味します。コンポーネント化されたサービスとは、特定の機能やビジネス機能を分離するコードの 「チャンク(かたまり)」 であり、APIを介して他の 「チャンク」 と接続して、新しいサービスを組み立てたり、既存のサービスの範囲を拡張したりすることができます。

「これにより、複雑さと技術的課題を軽減することができました。また、コンポーネントとAPIを迅速かつ大規模に再利用して、ビジネス価値を素早く提供できるようになりました」とプリ氏は話します。


FedEx:コンポーネントをつなげてビジネス価値を迅速に提供



最後に、プリ氏とチームはFedExにあった大量のレガシーシステムの運用を停止しました。これらを残したままだと、リープフロッグ戦略をうまく実現できなかったのです。これらの古い独自のシステムは、何十年にもわたって優れたサービスを提供してきましたが、システム切り替えのタイミングを迎えていました。

「これらのシステムは、より迅速に価値を提供するという私たちの方向性を妨げる可能性がありました。レガシー資産の重石を取り除くことができなければ、求める速度を達成することはできません」とプリ氏は語ります。「これまでホストしていたアプリケーションに関しては、ほぼクラウド化を行うか、あるいはハイブリッドクラウド型のコンピューティングプラットフォームに移行しました」。

テクノロジー導入の加速は、プリ氏がリードするインターナショナルFedExのオペレーションにのみ限定されたものではありません。

米国では、FedEx ExpressとFedEx Ground shippingの窓口兼、店舗での印刷・コピー・製本サービスを提供するFedEx Officeが、全米2,200店舗の顧客満足度を高めるためにデジタルトランスフォーメーションに取り組みました。この取り組みの中心にあるのは、Fujitsu Market Placeのオムニチャネル小売プラットフォームによって統合されたPOSプラットフォームです。このような広範な店舗や様々なデバイスを統合する販売システムを導入することで、店舗の関係者が実施する処理が簡素化され、顧客のニーズを満たすことにより多くの時間を割くことができます。

プリ氏は次のように述べています。「FedEx Officeでの富士通との協調によって、この分野で物理的にもデジタル的にも、より効果的に競争することが可能となります」。

新型コロナウィルスへの対応

FedEx インターナショナルではITのモダナイゼーションの大部分が完了していました。新型コロナウィルスの規模と影響が明らかになってきたタイミングの2020年には、プリ氏とチームが実施する大きな飛躍に向けて十分に準備が整っていました。「必要としていた最新のIT基盤が整ったことで、驚くべきスピードで大きな目標を達成することができました」とプリ氏は話します。


FedExのアジア太平洋の中心である中国の広州(イメージ:Getty Images)



最優先事項の1つは、可能な限り多くのFedEx社員を自宅で働かせることでした。中国で始まった取り組みは、ウイルスの感染が広がるにつれて、イタリアや、さらに世界の他の地域にも拡大しました。プリ氏によると、わずか1週間で約10万人のチームメンバーとパートナーが自宅で働けるようになり、FedExは独自の巨大な物流ネットワークを活用して、必要な場所にコンピュータ機器を配送することができました。また、リモートワークをサポートするために、仮想プライベートネットワーク(VPN)の容量を、週末2回を挟んで3倍に増強しました。

更に、経営陣の要請を受けてから10日で、非接触での配送をサポートするためのプロセス修正と関連するテクノロジーのアップデートを、FedExのネットワークを通じて実施しました。本サービスは北米の一部のお客様に既に提供されており、受取人は配送業者とのやり取りを事前にカスタマイズすることができます。例えば、荷物を安全な場所、またはお客様の玄関先に置くなどを指定することができます。理由は明らかですが、本サービスへの需要は急増しました。以前は 「その時間に家にいないかもしれない」というのが理由でしたが、今は「配達員と接触する危険を冒したくない」という理由でサービスが活用されています。

「これもまた、私たちの最新のシステムによって、非常に短い期間でより多くのお客様向けに展開することができ、ソーシャルディスタンスを気にされるお客様の懸念に対処することができました」とプリ氏は話します。

「私たちは、今後もリープフロッグし続けます。何故なら、パンデミックやいかなる困難をも乗り越えて、生き抜くための確実な方法だからです」。

お客様に、荷物の履歴の見える化や定期的なアップデートを提供するために、同社はFedEx SenseAware IDサービスを展開しています。本サービスは、緊急を要する荷物の配送用に設計されており、安全性、セキュリティ、およびタイムリーな輸送を可能とすることで、救命用医薬品や救急医療用品などの重要な物資の配送に使われています。

従来の物流では数十回のスキャンで位置を追跡していましたが、SenseAware IDセンサーを搭載した荷物は数百回に頻度を上げて位置をリアルタイムに追跡、これまでにはないリアルタイムの荷物の位置情報を提供します。「私たちのSenseAware IDの取組みはまだ始まったばかりですが、より多くのお客様がこのような見える化を求めているので、導入を加速していかなければならないと予測しています」とプリ氏は話します。


ニック・プリ氏 FedEx インターナショナルIT SVP (イメージ:Mark van den Brink)



新型コロナウィルスはこのようなリープフロッグを起こすきっかけになったかもしれませんが、プリ氏のチームはこの新しいアプローチを将来に向けて活用しています。つまり、このようなパンデミックに向けた迅速な対応は、FedExの市場における長期的な差別化において、非常に重要な役割を果たしていると考えられています。

「現時点では、特定の状況において、お客様に迅速に価値を提供し、自社に競争優位をもたらす取り組みを優先的に実施しています。しかし、市場のニーズの変化に対応するために何ができるのか。競合他社ができない何ができるのか。などについて問うことは、どのような時も重要です。いかなる状況下においても、前進し続けることができる明確な方法なので、私たちはリープフロッグ、跳躍を続けていきます」。