Photography: Jon Enoch

グローバル展開を視野にデジタル革新を加速するコスタコーヒー

2019年9月

コカ・コーラ社による吸収合併を機に、コスタコーヒーはグローバルな流通を可能にするIT部門の刷新を急いでいます。このユニークな視点についてCIOのフィル・スカリーが語ります。

多くのCIOがうらやむチャンスを手にしたフィル・スカリー。イギリスに本社をおき、世界第2位の規模を誇るコーヒーチェーン、コスタコーヒーを指揮するこのCIOは、従来のIT環境を新しいプラットフォーム、アプリケーションに刷新し、IT組織を構築する仕事を一任されています。

これもすべてコカ・コーラ社のおかげ、とスカリーは話します。2019年1月、コカ・コーラ社は、スターバックスに対抗するグローバルコーヒーブランド構築のために、イギリスのホテル・レストランチェーン“ウィットブレッド”からコスタコーヒーを49億ドルで買収しました。それを受け、ブランディングやデジタルプラットフォームの構築に今、多くの資金が投じられています。

「未開拓のITに近い状態であり、こんなチャンスはめったにありません」と語るスカリー。「非常に恵まれた機会です」。

そのIT環境はコカ・コーラ社のIT基盤へ埋め込むのではなく、連携するかたちで構築する計画にあります。「事業が異なるので互いに別にします。つまり社内システムも、サポートも、セキュリティもなにもかも自社で立ち上げるということです」。

新旧交代

しかし、その前に控えているのが面倒な移行の問題です。システムの切り替えを短期間でやる必要があります。事業継続性を確保するためには避けて通れない道です。人事システムやERP、サプライチェーンなどの基幹システムに中核基関しては、もともとの親会社だったウィットブレッドとの既存の技術サービス契約が1年間残っています。 それと並行して、顧客関連の既存システムを新会社に移す必要があります。

“コスタ・ワルシャワ“

スカリーのCIO就任以来2年間で、コスタコーヒーのデジタル革新は大きな進化を遂げました。その大半は顧客と店舗に関するものです。「オンラインショッピングや顧客囲い込みのプラットフォームを立ち上げ、モバイルアプリも投入しました。ミドルウェアからシステム連携まですべてを刷新して、顧客に関わるデータの統合に貢献しました」。

利便性の向上について彼は説明します。「お客様特典を自販機とリンクさせ、店頭でも自販機でもそれを使えるようにしました。これにより店舗と自販機の販売状況も把握できるようになりました」。

さらに変革を加速するためバックエンド系システムにも手を入れたいものの、ERPなどについてはウィットブレッドとの契約があるため、期限を待つ必要があります。「現状では卸売り関連の革新はお預けです」と彼は話します。完全に自社システムだけでやっていくためには、あと半年ほど待たなければなりません。しかし「そのときが来たら、自由に変えていきます」。

実際、いまウィットブレッドに依存しているのは業務系システムだけではなく、ヘルプデスクや業務サポート、顧客サービス、変更管理、情報セキュリティ、インシデント対応などがあります。「そうしたものは今後自前で立ち上げ、人員を配置し、業務プロセスに合わせていかなければなりません。ウィットブレッドとの契約が切れるまでに準備しておく必要があります」。

コカ・コーラ社の挑戦

現在、32ヶ国に4,000店(うちイギリスに約2,500店、中国に約500店)を展開するコスタコーヒーは、改革が進むにつれ、現在の親会社であるコカ・コーラ社のグローバル戦略に応えるには最新の技術環境が必須であることがわかってきました。

そこではクラウドが重要な要素となります。「データセンターは今後完全にクラウドに移行させます。これはERPの刷新など変革の大きな一歩となります」とスカリーは話します。「手始めに、これまで使ってきたレガシーアプリをコンテナ化してクラウドに上げ、準備が整った段階でグローバル展開用の最新アプリと入れ替えます。来年の今ごろまでにはすべての業務をクラウド化する計画です」。

「世界中の何千の店舗で販売されている同社のコーヒー製品と同様に、今後自社のITシステム、データ管理においても一貫性、繰り返し可用性、高品質を保証する必要がある」とスカリーは言います。それを支えるのが、この革新です。

拡大展開

「事業拡大と販売のマルチチャネル化を最大限支援していきます。これからさらに店舗も自販機も増え、営業地域も広がっていきますから」とスカリーは話します。

実際、コカ・コーラグループの稼ぎ頭であるコカ・コーラHBC社は、自社が事業展開する28の海外市場にコスタコーヒー10店舗を新設する計画です。また、コカ・コーラ本社は、自社の缶入り商品にコスタコーヒーを加え、グローバルに流通させていきます。

“コスタ・エクスプレス“

「それを実行するには、ITの力がなければ」とスカリーは話します。「ビジネスの方向性に水を差さず、やりたいことをできるように支えていくのがわれわれの仕事です」。

自販機販売はコカ・コーラ社の成長事業であるため、コスタコーヒーもそこに注力していきます。現在、世界で稼働するコスタコーヒーの自販機は11,000台。そこにさらに12,000台を新規に投入します。自販機はまた顧客データの収集源でもあります。「“コスタエクスプレス”自販機はデータレイクにつながっていて、販売情報はそこに送られます。そのデータから有益情報を拾い上げるため(AIやIoTなど)次世代技術を活用していくことも考えています」。

新たなIT文化

そうした仕事には人材が必要となります。「事業戦略上必要な技術スキルを手に入れるため、今は人材採用の真っ最中で、今後1年でIT部門の人員を50%増やす予定です」。そこには正規社員のほか、契約社員、社外スタッフが含まれています。「8ヶ月前までは、コスタコーヒー独自のIT部門は存在していませんでした。ソフトウェアもサポートも、なにもなかったのです。今いるスタッフはこの2年で採用された人間で、そのうちの56名はウィットブレットからの出向です」。

一からの出発のため、企業文化をそこに育てることができます。「どんなかたちがいいのか、現在思案中です」と彼は言います。セキュリティの仕組みから考えていかなければなりません。

年内には中国やポーランドを含め130名から140名ほどのグローバルIT部門を立ち上げる予定、とスカリーは話します。

「社内はスタートアップのような熱気と新しい力にあふれています」

こうした勢いは、IT部門のみならず会社全体にも影響を与えはじめています。

「ある意味これは大がかりな起業のようなものです。社内にはスタートアップのような熱気と新しい力があふれています。まさに、今後成長するためスタートアップみたいな考え方を持たなければなりません」。

その変化は各所に表れています。「決定事項がすぐに全社に行きわたるように組織はフラットな形にしました」と彼は言います。そして、そこには失敗を恐れない気風も育っています。「なにもかもが新しいので、失敗を恐れずまずやってみて、だめなら元に戻って考えるという形で仕事をしています」。

将来ビジョン

コスタコーヒーのIT部門の今後の指針はどこにあるのでしょうか?スカリーいわく、その鍵は、お客様とビジネスが握っています。

「お客様側から考えれば、いつでもどこでも、ほしいときにコスタコーヒーがそこにあるというのがいいわけです。自販機であるとか、家庭や職場への配達、店舗への出店など、購入接点をくまなく網羅して、世界中で商品をさらに身近な存在にしていきます」。

「支払いも簡単、待ち時間はできるだけ少なく、手軽にコーヒーを楽しめるようにする。そして、コスタコーヒーファンの情報も整えたい。デジタル技術でそれを実現できるようみんな頑張っています」。

フィル・スカリー


ビジネスの面では「まず、データをオープンに活用できるようにし、ツールを適所に置いて業務自動化を図っていきます。それで在庫管理などの手作業を減らし、お客様と商品に注力していきます」と彼は話します。

今後、IT部門はコスタコーヒーのグローバル展開の原動力となっていくでしょう。「コカ・コーラ社は大きなビジョンを描いています。50億ドルは単なる現状維持のためのものではありません。わたしたちのCEOはもちろん、コカ・コーラ社も全力でIT部門をサポートしてくれています。今後の展開はテクノロジーが鍵を握っており、IT部門の要望に応えることがグローバル戦略成功に不可欠だと理解してくれています」。

技術の導入に終わりはありません。「今日の小売業は、顧客の嗜好、ブランドの好感度、サービスのスピード、利便性が軸となって動いています。モバイルアプリ、AI、パーソナライズツール、顔認証といった技術がそれを支えています」とスカリーは話します。

「テクノロジーの力でお客様により高い品質と利便性をお届けするため、これからも変革に邁進していきます」。