All images courtesy of Airbus

エアバスのデジタル革新成功要因

2019年9月

エアバスの防衛・宇宙部門でデジタル革新を指揮するピーター・ウェクサー氏が、データ駆動型ビジネスへの転換について語ります。

「製品のリードタイムに10年、それに合わせて製造のバックログが存在する業界では、デジタル革新が必ずしも即効薬とはならない」と話すのは航空宇宙業界の巨人、エアバスで2015年から設計、製造、顧客サービスなど中核業務のデジタル革新を推進してきたピーター・ウェクサー氏です。

年商720億ドルのこの多国籍企業は、最近データ主導型の事業改革を進めています。バルセロナで開催された「Cloudera DataWorks Summit」で基調講演に登壇したウェクサー氏は、改革での学びや顧客とパートナーを捲きこんだ“デジタル・エコシステム”の構築について語りました。

デジタル革新を円滑に進めていくには、従来の思考法やワークスタイルを変える必要がある、とウェクサー氏は説きます。「企画、設計、製造の全てを変えていかなければなりません」。これは機械学習や拡張現実(AR)といった先端技術を取り入れることに加えて、事業そのものの変革をも意味しています。「それは大きな変化です。非常に高価な航空機の販売という業態からデータ主導型のビジネスモデルに徐々にシフトしているのです」。




このことからも分かるように、エアバスの変革プログラムは、短期的および中期的に会社全体のパフォーマンス力を上げていくために始められたものです。しかし、最終的にはエンド・ツー・エンドのデータ環境の再構築、そして顧客を中心とした新たなビジネスモデルやサービスの創造を目指すと、2018年の財務報告書で掲げています。

10年越しの挑戦

ウェクサー氏は、変革プログラムがサプライチェーンにも及べば生産ライフサイクルを半減させることもできると期待しています。「そうなれば、生産力も開発スピードも格段に高まります。エアバス航空機の需要は高く、バックログ(受注)は10年分あります。問題はその需要に生産が追いついていないことなのです」。

生産効率を今よりも高める鍵は、デジタル・ツインの活用と考えられています。実物の仮想版であるデジタル・ツインを活用することで、実際にモノを作る前にバーチャルに装備の開発や検証を行うことができます。

「航空機の新規開発にあたっては4つのデジタル・ツインを活用しています。製品だけではなく工具や生産工程、サービス工程のそれぞれに作ります」とウェクサー氏は説明します。「それで実際に開発や製造を行う前にシミュレーションを行い、開発期間の短縮とコスト削減をはかるというわけです」。




また、エアバスは、納入する航空機の信頼性と安全性を確保するため仮想モデルを用いた不具合のチェックを行っています。

データの力を解き放つ

顧客サービス分野で特に重要なのはスカイワイズ(Skywise)と呼ばれるオープンプラットフォームです。2年前に始動したこのシステムは、飛行中または整備中の航空機から直接データを取り込み統合することで、全世界で航空機の運用効率を高めます。

「実機から集めたデータをデジタルモデルにあてはめ、逸脱がないか見ています」とウェクサー氏は話します。例えば、エアバスA350は250,000ものセンサーを備え、飛行中に毎時10ギガのデータを生成します。それは保守整備の効率化と生産性向上に役立てられます。

エアバスは、将来的にこのプラットフォームを通じて大手航空会社をつなげ、端末同士でデータをやりとりできるデジタル・エコシステムを構築しようと考えています。すでに総数4,000機以上、50を超える航空会社がこのプラットフォームにつながっており、年内にさらに50社が参加する予定です。将来的にはその運用をサプライチェーンにまで広げていく計画です。

スカイワイズの成功を受けて同社は、2018年半ば、防衛市場向けに最新のデータ解析システムである、スマートフォース(SmartForce)を導入しました。エアバスの財務報告書によれば、「SmartForceが提供するサービスにより、戦闘機から送られてくるデータを通じて作戦の安全性と機動力を高め、保守整備のコストを削減することが可能になります。また、豊富なデータを生成するデジタル時代の戦闘機の場合、保守整備の効率はさらに高まります」と紹介されています。

一方、同社は、データの解析と提供を行う新事業を社内で立ち上げました。エアリアル(Aerial)と呼ばれるこの事業は、自社の人工衛星とドローンネットワークから送られてくる地球の画像やデータ、有効情報を提供するもので、自然災害などへの活用が期待されています。




課題を超えて構造転換へ

もちろんこうしたデジタル革新の取り組みは一筋縄でいくものではありません。たとえば防衛産業で扱う情報は機密性が高いため、パプリッククラウドとプライベートクラウドの併用は許されません。

またデータの置き場所も課題です。「国外不出のデータもあるため、特定の国に対しては共有規制をかける必要があります」とウェクサー氏は話します。しかし、それも勢いづくデジタル革新の流れを止めることはできません。

「航空宇宙業界は製品開発期間が特に長く、業界の体質も保守的です。しかし、今その業界が猛スピードで変わろうとしています。その激流のなかでいかに事業を伸ばすデジタル革新を進めていくか。それがまさに難しいことなのです」。

•本記事は、ロンドンで開催された「クラウド・エキスポ・ヨーロッパ」のピーター・ウェスカー氏の講演をもとに作成しています。