マティアス・ライス マイン・インキュベーター社 創設者/最高執行責任者
Photography: Benjamin Beech

次世代バンキングの研究開発拠点

2019年1月

ドイツのメガバンク コメルツ銀行は次世代の金融サービスを開発していくため、社外に研究開発拠点としてマイン・インキュベーター社を設立しました。

金融サービス業界では、これまで大手金融機関の独壇場だった銀行取引、保険、決済などのサービスに多くのフィンテック企業が参入し、市場競争が激化しています。

この動きへの対応は金融機関により様々ですが、メガバンクはデジタル技術を駆使した新しいビジネスモデルにより反撃の機会をうかがっています。

その一例が、ドイツで149年の実績を持つコメルツ銀行です。この5年、同行は事業革新に向けて様々な取り組みを進め、変化の速度を速める市場環境に合わせて柔軟にその優先順位を組み替えています。マイン・インキュベーターと呼ばれる子会社もそのひとつです。“次世代銀行のための研究開発拠点”から同行は何を学び、どのようなビジョンを描くのか、経営陣に話を聞きました。

マイン・インキュベーター社の創設者であり、現在同社の最高執行責任者(COO)を務めるマティアス・ライス氏は、設立当初の2013年頃、コメルツ銀行では最新技術を社外から取り入れようとする機運が高まっていたと振り返ります。「フィンテック企業をはじめ、グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルなどが新たな競合として出現するなか、業界に先駆けて次世代銀行への変革に取り組み、ビジネスチャンスと協業の機会をつかもうと考えていたのです」。

イノベーションには社内部門よりも社外組織が効果的であると考えた同行はマイン・インキュベーター社を設立しました。社名には金融サービスハブを貫く主流(マイン川)とコメルツ銀行の本拠地(フランクフルト・アム・マイン)の2つの意味が込められています。同社の掲げる事業目標は次の3つです。

1つ目は、フィンテック企業や技術系スタートアップ企業への投資です。他のベンチャーキャピタルも同様の役割を果たしますが、マイン・インキュベーター社の場合、投資先の事業姿勢と技術戦略を、よりきめ細かく評価します。

また、スタートアップ企業への投資額はその株式の5%から15%にあたる25万ユーロから200万ユーロになります。そうした資金協力を通じ、同社はベンチャーの開発した技術を手に入れ、コメルツ銀行の顧客向け商品の強化や業務効率化に役立てることができます。

マイン通り:フランクフルト・アム・マインにあるコメルツ銀行の本拠地


2つ目は、研究開発を通じた先端技術、業界トレンドの取り込みです。マイン・インキュベーター社はコメルツ銀行のチームとともに将来有望な12の最新技術(ブロックチェーン、ビッグデータ、AI、生体認証、ロボティクス、VR、クラウド、オープンAPI、ウェアラブルデバイス、IoT、量子コンピューター)を活用したプロトタイプを構築しました。

そして3つ目は、共創コミュニティの構築です。「デジタル化もイノベーションも、たった一人ではできません。公正なルールに則り、明確な目標を定めた環 境で、有意義な議論をすることが大切です。イベントを開催したり、様々なかたちで集まりに参加することで、スタートアップや技術系企業のエコシステムを支援することができます」とライス氏は話します。 こうした努力が先端技術活用への道を拓き、デジタル企業への変貌を後押しします。

社外組織との連携

新しい技術を既存業務に効率的に取りこむことは、それほど簡単なことではありません。しかし、2017年、そこにひとつの変化がありました。同年、マイン・インキュベーター社は、スタートアップ企業に投資するベンチャーキャピタルの役割から、コメルツ銀行の正式な研究開発拠点へと位置づけを大きく転換させます。

「独立組織というモデルは正しかったのですが、コメルツ銀行における位置づけが正しくありませんでした。当初、私たちは大企業向けのサービスを主眼に新しい 技術を探していたのです」とライス氏は話します。しかし、実際は、1,500万を数えるコメルツ銀行の顧客の大半は、個人または小規模な企業でした。そこで2017年、同社はコメルツ銀行の戦略責任者兼CIOを顧問に迎え、技術全般に広く目を向ける方向に事業フォーカスを転換しました。

「もちろんまだスタートアップ企業にも投資していますが、対象はさらに広がって、コメルツ銀行とその顧客 に役立つあらゆる技術に目を向けています」とライス氏は話します。マイン・インキュベーター社がコメルツ銀行に対して、適度な独立性を保っていることも重要だと指摘します。「私たちは、自社を金融サービスの未来を拓くめの研究開発拠点だと捉えています。コメルツ銀行と連携した社外組織として動くことで、パートナーとしても、独立企業としても、うまく事業展開できるのです」。