ロールス・ロイス、IoTでデータ推進型事業へ転換

2018年1月

エンジニアリング大手グローバル企業ロールス・ロイスは、製品ラインや製造設備全体にIoTセンサーを組み込むことで得られるデータや、データが提供するサービスを戦略的な資産と見ています。

ロールス・ロイスは、大量のデータを生成するエンジニアリング企業なのか、それとも、豊富なデータを保持し、市場をリードするエンジン製造企業なのか。

イギリスに本社を置く同社の、航空、防衛、エネルギー、そして船舶業界における変革の歴史を前提にすると、先の質問はひっかけ問題のように聞こえるかもしれません。しかし、これは138億ポンド(186億ドル)規模の内、大部分を産業用のモノのインターネット(IoT)推進により実現した企業で進行中のデジタル革新をまさに反映した質問なのです。

ロールス・ロイスは、IoTセンサーから生成されたデータをクラウドで集約、分析することで、ジェット・エンジンやヘリコプターのブレードから、発電システムや船舶用タービンまで、自社製品のパフォーマンスに関して、これまでにないインサイトを得られるようになりました。こうしたデータの性能は、単に機器の異常や保守要件を予測するレベルから、お客様に貴重なアフターマーケット・サービスの提供(航空会社にルート最適化の方法を示したり、荒天時の調査船位置を正しく把握することなど)まで、急速に進化しています。

ロールス・ロイスのシンガポール拠点のIoT部門長であるサチン・グプタ氏は、そこに根差している意気込みについて次のように語っています。「IoTセンサーから生成されたデータの活用により意思決定を改善し、お客様の事業のみならず、自社の事業も最適化します」。

飛行中の分析

ビッグデータに関する課題の大きさと複雑さは、本当に驚くべきものです。ボーイング787型機のような新型旅客機は、一回のフライトで平均500ギガバイト、長距離フライトの場合は数テラバイトのデータを生成します。ロールス・ロイスの各エンジンには数千のセンサーが搭載されており、燃料流量、圧力、温度から機体の飛行高度、飛行速度、大気温度などすべての数値を追跡し、そのデータをロールス・ロイスのオペレーション・センターに即時に送信しています。同社の民間機向けアベイラビリティ・センターは、4,500台の稼働中のエンジンを常にモニタリングしています。



データ収集の難しさに比べると、IoTの分析側はそれほど難しいものではない、と思えるかもしれません。ロールス・ロイスの最高技術責任者(CTO)であるポール・ステイン氏は次のように述べています。「すべてのデータをクラウド(Microsoft Azure)に移行し、小規模で得意分野に特化したサードパーティー企業で構成されたエコシステムがデータセットの様々な要素を分析します」。

ポール・ステイン氏
ロールス・ロイスの最高技術責任者(CTO)
同社の工場でも、主要な要素はIoTに対応しています。「あらゆるデータをクラウドに置くことによって、製造部門長は工場での出来事すべてを可視化できるようになります」とステイン氏。規模でいうと、1年に6,000枚のエンジン・ファンブレードを製造した場合、3ペタバイトのデータが生成されることになります。

しかし、ビッグデータの課題すべてが航空機に関するものとは限りません。ステイン氏は、専門海洋エンジンに関する例も述べています。石油やガスの探索を事業とするお客様の場合、荒天時でも船の位置を正確に把握できる、自動船位保持装置が必要です。「そのためには、効率的なセンサーと高度な制御アルゴリズムが求められます。また、こうしたお客様からは、遠隔から欠陥を検知し、船上で修理する機能についてのご要望が高まっています」とステイン氏。

「サプライチェーンの両端でIoTを応用することで、運用データから得られたインサイトを、設計や製造部門に直接フィードバックするような好循環が生まれます。ライフサイクルの中で発生した問題について、商品が[自律的に]設計チームにフィードバックを送れば、設計チームは製造チームへフィードバックを送信することが可能です。各チームが必要な改善に取り組むことができるのです」とグプタ氏は強調します。

新たなイノベーション・モデル

サチン・グプタ氏
ロールス・ロイスのIoT部門長
卓越性を追求するには、ロールス・ロイスが自身の壁を乗り越える必要があります。「技術をさらなる高みに乗せ、エンドユーザー、スタートアップ企業などの様々な業界のプレーヤーと連携することでイノベーションを推進し、その技術がどのように私たちのビジネスに組み込めるか見たいのです」とグプタ氏。例えば、ロールス・ロイスは最近、シンガポール科学技術研究庁A*STARとコラボレーションを開始し、スマート・マニュファクチュアリングとIoTセンターを立ち上げました。これには、ナノテクノロジーやマイクロエレクトロニクスの進んだ技術を活用したIoTセンサーを開発する研究所や、計算科学開発研究所が含まれます。

ロールス・ロイスは、シンガポールで研究開発や製造の分野における長年の実績があります。例えば、航空エンジンTrentの組み立てや試験、チタン製ファンブレードの製造、アジア太平洋地域の航空会社への顧客サービスの提供などです。

もう一つのデータ中心型の取り組みとして、データ・イノベーションを加速させるハブとして最近立ち上げたR2データ・ラボがあります。同社によると、「R2データ・ラボは、高度なデータ分析、産業人工知能と機械学習テクニックを活用し、ロールス・ロイス社内の設計、製造、および運用効率の改善につながるデータ・アプリケーションを開発し、お客様に提供できる新たなサービスを創っています」とのこと。その中心にあるのがデータ・イノベーション・セルで、全社から様々な分野の専門家を集め、「迅速なデータを探索し、新しいアイディアを試し、それらをイノベーションやサービスに転換する」ため、最先端のDevOps原則を適用しています。

「理想のIoTデバイスとは。ボルト・ヘッドに収まるくらい小さく、場所を問わず通信ができ、製造や環境の履歴情報を保持し、許可付きのリクエストにのみ対応するものです」

しかし、ステイン氏は次のように指摘します。
「これから何かできそうだ、という感覚は、技術の能力を超えています。次の段階に取り組むのは、デバイス、顧客の資産、ツール、航空機、空港設備などをつなぐことですが、現在出回っている技術は使い勝手が悪いものばかりと言っていいでしょう」。
ロールス・ロイスの要件は、IoT技術にとってはかなり難解な課題と言えます。ジェット・エンジンの温度は1,700℃まで上がり、最も温度の低い場所でも350℃です。また、エンジンのファンケース上にも電子センサーが搭載されており、-60℃の環境でも正常に機能しなければなりません。海上の過酷な環境では、120トンのプロペラが旋回しながら海氷を削っていく際の大きな衝撃に耐えられるセンサーが求められます。また、原子炉の中性子束は、ほんの短期間露出するだけでIoTの電子部分を破損してしまいます。

こうした状況を念頭に置きながら、ステイン氏は理想のIoTデバイスの像を描きます。「ボルト・ヘッドに収まるくらいの小ささでも、場所を問わず世界のどこでも通信ができ、どこで製造されたのか、仕様を上回る物理的な力を受けやすいか、などの履歴情報を保持できるものがほしいです。また、それらは許可付きのリクエストにのみ応答し、なりすましができないものでなければなりません」。