伝統の技と最先端技術を融合させ、上質な酒を醸す旭酒造

2018年11月

旭酒造が作りあげた自慢のブランド「獺祭」。最高級の酒は、愛情を注がなくては造れない。しかし、それはまた途方もなく骨の折れる仕事でもあります。

何世紀にもわたり培われてきた杜氏の技。それは質の高い酒造りに欠かせません。しかし、旭酒造はさらに細心の注意を払い、その技を新しいデジタル技術と融合させました。

4年ほど前、同社はICT企業の富士通とともに契約農家の稲田にIoT技術を導入。センサーから送られてくる膨大なデータを富士通の農・食クラウドAkisai(秋彩)に連携させました。獺祭の原料米である山田錦の安定供給を確保するためです。この試みは功を奏し、2社の共創はさらに一歩先に進みます。2018年4月、獺祭の醸造手法を最適なものとするため、富士通研究所の開発したAI予測モデルを活用することになったのです。

「ここでは昔からの酒造りの手法と最先端機器が融合しています」と旭酒造の桜井一宏社長は話します。酒米の王様ともよばれる山田錦を仕入れ、玄米から脂肪とタンパク質を除くために精米し、中心部にある発酵を行いやすい心白を取り出します。

精米歩合は50%、39%、さらに最も澄んだ味わいを生み出す23%。水は本州南に位置する山々から湧く天然水を用いています。獺祭の品質へのこだわりは海外のファンも魅了し、ここ数年間に世界20カ所に販路を広げ、純米大吟醸の売上は前年比40%以上の伸びを見せています。

こうした需要の伸びに応えるためには、伝統のなかに新しい考え方を吹き込んでいく必要があります。

通常より高く伸びるわりに(およそ通常の1.5倍)稲穂が重いため、風の影響を受けやすく、また病気にも罹りやすい山田錦は、栽培の難しさで知られています。2013年の時点で、この米を手がける農家はほんのわずかで、そこにさらに高齢化の波が押し寄せます。


2015年の統計によると、止まらない地方の人口減少もあり、日本の農家の平均年齢は67才に上昇しています。

「山田錦を作るには熟練が必要でした。そのため、あまり市場に出回らず、必要量を確保するのが困難だったのです」と桜井社長は話します。たとえば、2013年に収穫された酒米80,000俵のうち市場に出回ったのはわずか半分でした。

この状況を変え、収穫量を増やすために、旭酒造は富士通との共創に乗り出しました。太陽光発電によるIoTセンサーやカメラが稲田に設置され、データ収集と解析のための計測機器がAkisaiクラウドにつなげられました。大気や地表の温度や地表の湿度、電気伝導率といった環境指標をセンサーは捉えます。

こうした取り組みにより、収穫を最大化する方法が考案され、ノウハウや知見を共有するデータ基盤も構築されました。

耕作方法、肥料、殺虫剤、苗の品質や成長率、収穫量など、それぞれの農家の取り組みと成果を記録することで、栽培法に磨きがかかります。全てのデータはノートパソコンやタブレットなどの端末機器からAkisaiに送られます。「この仕組みによって、農家の方々は自分たちの作業を記録し、その結果から、何が実際に効果を挙げているのかを判断することができるようになります」と桜井氏は話します。

データ収集

成果は大きなものでした。「収穫量は2、3倍に増えています。新しく米作りに挑戦した農家も含め、それぞれが効率よく生産的な栽培法を採るようになってきたからです」と桜井氏は説明します。

「わたしたちは日本国内に流通する山田錦のほぼ20%を購入していますが、収穫量の増加はすなわち商品量の増加につながります。他の米の価格の約3倍である山田錦を栽培する農家の人々には追い風です。Akisaiシステムの導入は農家と酒蔵の両方にとって大きなプラスになっています。」

機械学習

最先端技術を用いた酒造りで成功を収めた旭酒造は、他の伝統的なスキルにもどのようにITを活用できるか検討しています。2018年4月、富士通研究所の技術を用いて、本酒醸造の流れを定義した数理モデルと、「獺祭」の醸造工程において計測される実際のデータを用いた機械学習を組み合わせることで、日本酒醸造工程における最適なプロセスを支援する実証実験を開始しました。

富士通のZinrai AIプラットフォームを用いたこのモデルにより、酒造りに関わる設備の制御を最適化するに当たって、AIがどれほど役立つかを検証することができます。


「実際の醸造現場での計測情報や旭酒造社員の経験と勘に基づいた行動をデータとして取り込むことによって、本AI予測モデルの精度向上と必要となる情報の精度を上げる事を目指します」と、旭酒造は述べています。

農村の高齢化も忘れてはなりません。「高齢化が始まった日本では、酒造りでも労働力不足が叫ばれる時代がやってくるでしょう。そうなったときどうやって獺祭の品質と安定した流通を守っていけばいいのか」と桜井氏は話します。「これまで酒造りのノウハウを蓄め、システム化してきたのは、その課題に対処するためです。」

伝統の技と先端技術の融合。その努力は、必ずや世界の日本酒ファンの心を捉え、祝杯を受けることでしょう。