Photography: Yasu Nakaoka

信頼の再構築:デジタル時代の最優先

2019年4月

AIやIoT、ビッグデータといった強力なテクノロジーが、ビジネスや社会を飛躍的に前進させると期待されています。しかし、そのためには、新たなテクノロジーを使うことに対する「信頼」が不可欠です。富士通グローバルマーケティング本部チーフストラテジストの高重吉邦が、デジタル技術を活用した誰もが信頼できる未来について語ります。

富士通フォーラム2019 フロントラインセッション講演者

Q:なぜ今「信頼」という言葉が、経営者、政策立案者、そして生活者にとって、これほど重要になっているのでしょうか?

今、私たちはデジタル時代を生きています。すでに、あらゆる業界に属する企業が、デジタル技術を活用したビジネスのトランスフォーメーションを開始しています。人だけでなく、様々なプロダクトや物理的なモノがデジタル・ネットワークにつながって膨大なデータを生みだし、そのデータを学習することによってAIが加速度的に進歩しています。デジタル・トランスフォーメーションは、流通、製造、医療、モビリティなどの広範な分野で目覚ましい成果をもたらしています。

しかし、デジタル時代は想像していなかったダークサイド(副作用)を伴いました。例えば、サイバー攻撃は年々増加を続け、被害が拡大しています。その対象は企業や個人だけでなく、今では重要な社会インフラまでもが大きなリスクにさらされています。

富士通が世界主要9カ国で900人のビジネスリーダーを対象に実施した調査では、回答者の68%が情報漏洩に懸念を表明。さらに、ほぼ同数が社会インフラに対するサイバー攻撃を憂慮していることが分かりました。

また、データ量が制御できないほどに早いスピードで増加を続けていること自体が大きな問題です。もはや個人も企業も、何が正しい情報で何が虚偽なのかを判別することが困難になっています。私たち調査でも、ネット上のデータの信頼性を疑問視するビジネスリーダーは70%に上りました。

ここでもうひとつ注目すべきことは、企業に対して社会課題の解決や共通善の実現を求める人が増えていることです。この意識は特に若い世代に顕著です。都市化や高齢化、環境汚染や気候変動といったグローバルな難題が山積している中で、企業が株主の利益を主眼に活動しているだけでいいのだろうか、と問いかけているのです。

デジタル時代は、非常に複雑で、カオスのような世界をつくりだしました。様々な問題が、ビジネスや社会における信頼関係を傷つけています。今、信頼の再構築がビジネスの最優先課題の一つとなっているのです。

Q:こうした課題に対応するために、企業はどのように「信頼」の向上に取り組むべきでしょうか?

従来、ビジネスや社会の活動は2つの信頼(トラスト)の型で支えられていました。最も基本的な人と人の間の信頼関係(トラスト1.0)と、政府や銀行、大企業といった権威ある機関が担保する信頼関係(トラスト2.0)です。デジタル時代には、分散型のデジタル技術が生み出すデジタル・トラスト(トラスト3.0)がこれらを補完していきます。

何百億個ものモノがインターネットに繋がり、AIアルゴリズムが複雑なプロセスの末端(エッジ)に埋め込まれる世界がやってきます。自動運転車を例にとれば、車載AI同士が相互にコミュニケーションしながら自律的に走行することが実現していきます。

同時に、従来の垂直統合型のビジネスに代わって、信頼をベースとしたエコシステム型のデジタルビジネスが伸長していきます。分散型のビジネス環境で成功するためには、デジタル技術を活用して強固な信頼性を確保することが不可欠です。しかし、それは決して簡単なことではありません。

Q:デジタル時代に信頼を確立した企業は、どのようなビジネス上の成果が得られるのでしょうか?

顧客や従業員、社会から信頼される行動を取る企業ほど、デジタル・トランスフォーメーションによるビジネス上の成果を実現しているー私たちの調査はこういう結論を導き出しました。エコシステムの構築、コラボレーションの促進、従業員のエンパワーメント、顧客のプライバシーや個人データの厳正取り扱いといった要素を検討しました。これらの要素とデジタル・トランスフォーメーションの成功の間には強い相関性があることが分かりました。

もうひとつ重要な要素は、企業が事業を行う目的です。例えば、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を事業戦略に組み込んでいると回答した経営層は全体の66%でした。SDGsに取り組むこれらの企業のほうが、デジタル・トランスフォーメーションの成果を実現している比率が明らかに高いのです。社会的な課題解決を志向する事業運営がより大きな信頼を生み出し、具体的なビジネス成果につながっていると考えられます。




Q:誰もが信頼できる未来に向けて、富士通はどのような研究開発を行なっていますか?

例えば、富士通はAIの開発に独自のアプローチを取っています。AI技術は急速に進歩し、多くの具体的な成果をもたらしています。しかし、AIの推論プロセスはいまだにブラックボックスであり、なぜその結論に至ったのかという理由は明確ではありません。さらに、AIは偏ったデータや不正確なデータに基づいて判断を行なっているかもしれません。私たちはいったいAIの判断を信頼できるでしょうか? 富士通の調査では、AIが十分な根拠を明示するならばAIの判断を信頼できる、と考えるビジネスリーダーが全体の3分の2に達しました。

この大きな課題に対し、富士通は「Deep Tensor(ディープテンソル)」と「Knowledge Graph(ナレッジグラフ)」という2つの独自AI技術を組み合わせ、世界に先駆けて「説明可能なAI」を開発しました。京都大学と共同でがんの遺伝子データベースを構築し、これらのAI技術を使って推論の根拠を明示することにより、がんのゲノム医療判断の期間を従来の2週間から1日に短縮することに成功しました。

富士通のもう一つの技術的なブレイクスルーが、「デジタルアニーラ」です。この量子現象に着想を得た全く新しいコンピュータは、複雑な組合せの最適化問題を高速で解くことができます。都市のモビリティマネジメント、工場のジョブ・スケジューリング、創薬など多様な分野で従来のコンピュータでは処理できなかった複雑な問題の解決に威力を発揮します。

さらに、分散型のエコシステムにおけるエンド・ツー・エンドのデジタル・トラストを確保するために、高度なセキュリティ技術やブロックチェーンを活用したソリューションを提供しています。

富士通は、人を全ての中心に置いたヒューマンセントリック・イノベーションを通じて、ビジネスと社会にポジティブなインパクトをもたらし、デジタル時代における信頼の再構築に貢献していきます。