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責任あるビジネス

ビジネスにおけるパーパスの重要性

2020年7月

新型コロナウイルスの感染拡大をはじめ気候変動による自然災害など、地球規模の課題が経済や社会を揺るがし、見慣れた日常の風景を一変させています。このような時代に、ビジネスはこれまで通りの経営思想で存続できるのでしょうか?富士通で理事を務める梶原ゆみ子が、社会的存在としての企業、その事業活動の根底を支える『パーパス』の重要性について語ります。

Q. 不確実で、大きな社会的課題に直面しているなか、企業はどのような対応をしていますか?

株主の利益をどこまでも追求する経済活動よりも、地球全体を次世代に引き継ぐものとしての経済活動が始まってきているように思います。たとえば2015年に国連が制定したSDGs(持続可能な開発目標)を契機に、そこに規定された社会課題に向けて事業を進める企業やそれを支援する投資が増えています。

また、米国を中心にこれまでのシェアホルダー資本主義を見直し、ステークホルダー資本主義へ移行する機運が高まっています。ステークホルダーには、シェアホルダーに加え、企業の事業活動、製品・サービスの直接受益者となる顧客のほかに、従業員、サプライチェーンやコミュニティも含まれています。昨年の米国のビジネスラウンドテーブルでそうした方向性に181人の経営トップが賛意を表し、今年のWEF(世界経済フォーラム)のダボス会議でも同様の議論がなされました。

日本では内閣府のCSTI(総合科学技術・イノベーション会議)が超スマート社会『Society 5.0』を推進しており、そこでは経済発展と社会的課題解決が両立する人間中心の社会が謳われています。経団連でも、Society5.0を「創造社会」として、人間ならではの多様な想像力や創造力を発揮し、社会を共に創造していくことが重要だと強調しています。

日本にはもともと、売手と買手だけでなく社会に貢献してこそ商売だという「三方よし」や「企業は社会の公器」、「善の循環」といった経営哲学がありますので、ステークホルダー資本主義は馴染みやすいかもしれません。

 梶原ゆみこ

富士通のダイバーシティ、サステナビリティの推進責任者であり、『Fujitsu Way』や産学官連携も担当している。富士通に入社して以来、知財、法務、人事の各部門で上級職を務めた経験を持つ。



Q. そうした流れに沿うために、今年、富士通が『パーパス』を新たに制定したのでしょうか?

富士通はいま、ICT企業からDX(デジタルトランスフォーメーション)企業への転換を図っています。単にテクノロジーやサービスを提供するだけでなくお客様や他のステークホルダーとともにデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいくパートナーへと生まれ変わろうとしているわけです。パートナーとして信頼されるためには、揺るぎない目的を掲げることが必要です。

そこで「富士通はなぜ存在しているの?」「社会のために何をする会社なの?」ということを明文化した、『パーパス』を制定しました。

私たちのパーパスは、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」です。

これは、いわば企業の存在意義、経営理念、ミッションです。これを明確にすることで経営方針や事業戦略に一貫性が生まれ、現場にいる社員の行動にもぶれがなくなります。

特に、そこにある「信頼」は創業以来、富士通のDNAに深く刻まれているものです。歴代の社長もこの言葉を時代に合わせて語っています。このデジタル時代にも「信頼」は欠かせません。人間がAIと共生する時代にはなおさらです。テクノロジーの発展には常に光と影の影響がありますので、テクノロジー企業は影の部分も見据えながら、使う人たちや社会への責任を果たさなければなりません。

Q. このような『パーパス』をグローバルの13万人の社員に浸透させるにはどうすれば良いのでしょう?

社員の一人ひとりが自分の行動を振り返ることが重要だと思っています。自分が何のためにその仕事をやっているのか、大きな目的を理解し、それを他の人に伝えられるかどうか。

ドラッカーの本に3人の石工の話があります。旅人が石切場で石工に「何をしているのか?」と訊くと、1人目は「生計を立てている」と答え、2人目は「自分はこの国で一番いい仕事をしている」と言い、3人目は目を輝かせながら「大聖堂を建てています」と答えます。同じ仕事ですが意味づけが異なります。大聖堂を建て人々のためになる、そういう目的を持って働けることは、やりがいも高くなるのではないでしょうか。



Q. 人類が直面する課題への認識が高まっている中で、富士通のパーパスは社員やお客様の共感を得ていますか?

特に、ミレニアル世代やZ世代の若者をみていると、そういう気がします。この世代は、お金を儲けていい暮らしをすることから、自分の力で社会に貢献したいと考える人が増えている。経済が右肩上がりの時代を経験したわたしたちの世代とは違って、彼ら彼女らは東日本大震災のような不条理を若くして経験し、身内や友だちにも被災した人たちがいます。不確実な時代だからこそ、いまここで何をすべきなのだろうと真剣に考えています。これは新型コロナウイルスの感染が広がるいまの状況にも重なります。そういう感性を持った世代が社会の主流となってくるとき、これまで通りのやり方で事業を動かしていたのでは企業は社会から声がかからなくなってしまいます。

Q. 富士通の企業指針の一つにダイバーシティの推進が含まれています。その中でのあなたの役割は何ですか?

この数年、ダイバーシティ(多様性ある人材登用)やインクルージョン(多様性を受け入れる組織風土への変革)を社内に浸透させる仕事をしてきました。

海外の推進担当者たちとダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の社内ビジョンメッセージを考え、“Be completely you.”という表現に決めました。100%自分らしく、という意味です。

心理的安全性という言葉がありますが、組織のなかで自分は安全だと思えなければ人は100%の力を発揮できません。性的指向・性自認(SOGI)も問われることなく自分らしく働ける職場でなければ。D&Iは、それぞれの個性を尊重し、その個人の能力を最大限に引き出すということです。それができなければ新しい価値に気づくことも生み出すこともできず企業は成長できません。

Q. ダイバーシティ&インクルージョンについて、日本特有の課題はありますか?

誰もが同じ文化で同じ言葉を話して仕事をするやり方は、生産性を追求した経済成長時代にはとてもうまく機能していました。しかし、先が見通せず、従来の延長線上には解がないこの時代には、他人と違う視点や発想が必要です。イノベーションを起こすにはやはり多様なものの見方や感性がなければいけません。しかし、人材の均質性が必ずしも不健全であるというわけではなく、テクノロジーやサービスによって新しい価値が生みだされた後、これを安定的に運用し、拡大させていくような場面などでは、効率が良いでしょう。どちらか極端に偏るのではなく、それぞれの良さを理解してバランスを取っていくことが大切です。

グローバルな視点からも、富士通は量子技術に着想を得たデジタルアニーラや説明可能なAI、ブロックチェーン、5Gなどといったテクノロジーや豊富な実践ノウハウを持っています。そして、私たちのパーパスのもと、こうしたテクノロジーやノウハウを活用しながら、お客様を含むあらゆるステークホルダーのために社会課題の解決に挑んでいきたいと思っています。


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