「信頼」とイノベーションの共生関係

2018年10月

ベストセラー書の著者であり、オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクール講師のレイチェル・ボッツマンが、イノベーションには信頼が不可欠だと説いています。

信頼を定義しようとすると、透明性ということが重要だと多くの人が考えます。「わたしがあなたを信頼するのは、今後どうなるか何もかもわかっているから」というわけです。しかし、オックスフォード大学で信頼をテーマに教鞭を執るレイチェル・ボッツマンによれば、透明性を求めるような信頼は、信頼のなかでも程度の低いものです。イノベーションとは、これまでにないことを新しく始めるということ。だからやる前から結果はわかりません。つまりそこに透明性はないのです。イノベーションで重要なのは、ある面においてそれが未知なる領域での手探りの探索であるという点にあります。

しかし、透明性はともかく、信頼にはリスクがつきものです。ボッツマンは、その点をこう話します。「信頼とリスクは表裏一体なのです。リスクがあって、結果も予測不可能という仕事をする場合には、信頼の程度が高い環境とチームが必要です。そこではチームリーダーでも、プロジェクトにかかる時間や成果についてわからなくてもよいのです。イノベーションを起こそうと考えるなら、先が見通せない状況や損失の可能性をものともしない姿勢が必要です。そういう状況で人々に仕事をやり遂げさせるもの、それが信頼なのです」。

彼女は言おうとすることはつまり「イノベーションを起こすとか、イノベーティブであるためには信頼が不可欠だ」ということです。そして、イノベーションを成功させるために欠かせない信頼は、人間の感情に支えられています。技術はわたしたちの行動パターンを変え、信頼の仕方に影響を与えていますが、そこばかり見ていると、信頼というものが本来は非常に人間的なものであるということを忘れてしまいます。イノベーションにおける信頼を語るのであれば、仕事を効率化する技術の話だけでは足りません。ボッツマンはこう説明します。「たとえば、デジタル革新で見過ごされがちなのは、社内で業務や顧客対応のあり方を変えていこうとするとき、信頼が不可欠だということです」。

社外に目を向け、お客様のことを考える場合も同様です。彼女はこう続けます。「たとえばオンラインバンキングのアプリであるとか、お客様になにか新しいことを始めてもらうような場合、そこには“信頼の跳躍(trust leap)”が起こります。この“跳躍”がお客様にどれだけの負担を強いるかについて、勘違いしている企業がたくさんあります。技術はシームレスにつなげられるでしょうが、人々の行動パターンとは別です。社内ではあたりまえだとしても、お客様にとっては馴染みのないこと。それにどうやってお客さんの信頼をえられるのでしょう?」

この問いはわたしたちをもう一度人間の感情に立ち戻らせます。ボッツマンによれば、その対象が人間にせよ企業にせよ、誰かが相手を信頼する場合に共通して注目する特徴が4つあります。

最初の特徴は能力です。仕事を請け負う相手は、その仕事についての知識、スキル、実績があるのか。二つ目は確実性です。長期にわたり同じ成果をあげていく確実性がどれだけあるのか。三つ目の特徴は思いやりです。他人がおかれている状況や必要としているものを、どれだけ親身になって考えているのか。

最後の特徴についてボッツマンはこう話します。「これは時が経てばなんとかなるようなものではなく、しかも信頼を失うのはたいていこの部分なのです。つまりそれは、尊敬に値する誠実さです。つまり、相手が人間の場合でも企業の場合でも、その意図するものがこちらの意図と一致しているかということ。たとえば、ある企業がやろうとしていることが、投資家ではなく顧客の方を向いているとわかったとき、わたしたちはその企業を信頼するようになります。しかし、企業にとって誠実であろうとすることは簡単ではありません。技術の影響も受けるでしょう。かつては一般の人が企業の考えを探るのはほとんど不可能でした。しかし、あらゆる情報をリアルタイムで入手できる今日、それは難しいことではありません」。