デジタル革新の成功に向けた学び:構想は大きく、立ち上げは小さく、展開は機敏に

2018年8月

行政サービスを機敏に、市民中心にするためには?シンガポール政府のCIOを務めるチャン・チョウ・ハォが、行政IT部門のカルチャー・シフトについて紹介します。

民間で23年働いて2014年にシンガポール政府に招かれたわけですが、その仕事は厄介で、少々気がひける面もありました。それは、行政のIT部門は官僚的で動きも鈍いという噂を気にし過ぎていたからです。しかし、政府はこれまでの殻を破って改革を進める新しい思考法を求めていて、それで私をシンガポール政府のCIOに選んだわけです。

役所は組織も人も頭が固く、改革が一筋縄でいかないことはすぐにわかりました。

政府の技術部門を見渡し、使えそうな技術者を選びましたが、最初はその数もわずか7人に過ぎませんでした。そこでとりあえず定めた方針は“構想は大きく、立ち上げは小さく、動きは早く”というものでした。行政全体のデジタル革新を目標に掲げましたが、プランニングに何年も費やすのではなく、手早く実効性を証明してみせる必要がありました。まず課題を特定して対策を考え、すばやく結果を出すようにしました。

信頼の醸成

これまで政府のIT事業は3年がかりで5,000万ドルもの予算を要していましたが、わたしたちの場合は、予算数十万ドル、期間6~9ヶ月というかたちで取りかかりました。それがうまくいくと、役所の職員たちの印象が変わり、信頼も生まれて多くを期待されるようになりました。

市民に直接的に、そしてすぐに役立ったので、プロジェクトは影響力がありました。(「スマート国家を支えるアプリ」参照

こうした流れに乗り、新たな組織を立ち上げました。これはソフトウェアを作る専属ベンチャーのようなもので、わたしたちはHiveと呼んでいます。GovTechから独立した部隊で失敗も辞さずに新しいことに挑戦し、イノベーションを起こす自由が与えられています。

行政のIT部門のあり方については大事な気付きがあります。役所でイノベーションの試行錯誤が進まない理由は、そこに大きな利害が絡んでいるからです。まず、予算が市民からの税金であるということ。そして、もしプロジェクトに何千万ドルも費やされるのであれば失敗は決して許されないということ。それほどの投資をすれば、失敗することも、失敗と見なされることも、あってはならないのです。しかし、半年で10万ドルほどのプロジェクトであれば、大した成功を収めなくても大目に見てもらえます。

多様性をもたせる

Hiveの目標を達成するため、わたしはさまざまな人材を引き入れました。デザイナー、ソフトウェア開発の熟練エンジニア、データサイエンティスト、地理空間の専門家。ドリームワークスから招いた最高技術責任者(CTO)は、Ubisoft、Blizzard、Kingといったゲーム開発会社のエンジニアを大勢引き連れてきました。IoT関連のエンジニアリング部門長はアップル出身で、やはり同様の経験を持つ人々をたくさん連れてきてくれました。かれらは非常に革新的で仕事熱心です。

それが最初のきっかけです。現在、300人体制で運営しており、サービスへの需要は供給の5、6倍に膨れ上がっています。

一番難しいのは、行政にも新しいITを吹き込めるということを示すことです。一言でいえば、大きな夢を描き、小さく初めて、それをさっとかたちにしていく、ということです。

•写真: ジョン・エノック