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シェルのAI活用:オペレーションの効率化と顧客中心型スマートビジネスの実現

2017年8月

ロイヤル・ダッチ・シェルのダウンストリーム事業担当CIOのクレイグ・ウォーカー氏が、AIを活用して、いかに組織全体で事業目標を達成するかについてお話します。

(ダウンストリーム事業部は、燃料や潤滑油を企業や航空、運輸部門に提供し、4万店舗以上のシェル・ブランドのサービス・ステーションを運営しています)

人工知能(AI)の潜在的なメリットは、ほぼ全ての経営陣の関心事となっています。このため、プロセスの自動化、労働力としてのロボットの活用、顧客サービスの改善とコスト低減におけるAIの可能性について、様々な質問が投げ掛けられています。AIの期待が現実よりも先をいっている状況にある中、CIOは根拠に基づくガイダンスや方向性を示さなければなりません。

問題は、人々はAIについて、既にある種のイメージを持っていることです。人のようなロボットを想像する場合がほとんどですが、これはAIとは違うレイヤー(layer)の話です。

ベネフィットの改良

AIの可能性の広さや深みは、ヨーロッパ最大の企業であるシェルに、影響を与えています。ダウンストリーム事業部において、業務の効率性とパフォーマンスを改善させる技術の可能性は、既に明確になっています。システムに学習させた内容を基に、よりスマートな意思決定ができれば、収益性に非常に大きなインパクトが期待できます。

同社は、プラントの日常業務から創出される大量の情報分析にAIを活用しています。従来、プラントの管理職は営業部長に指示し、販売数量予測を報告させていました。しかし、シェルは、AIを活用して市場内の需要を予測すると共に、供給不足を追跡することこそ、1バレル当たりの石油から生成される価値を最大化する、収益性の高い方法だと気づいたのです。

インテリジェント・システムを駆使し、市場のパターンを理解すると同時に、シェルのダウンストリーム事業部は、AIを用いてプラント内の原油を分析し、それぞれの混合やブレンドが精製工程での問題につながらないようにしています。この分析を基に、ダウンストリーム事業部の管理職は純利益に目を配りながら、先を見据えたより良い判断ができるのです。

スマート・マニファクチャリング・システムが毎朝、前日に検知した傾向をエンジニアに通知します。問題をハイライトするだけでなく、最適な温度や圧力、稼動スピードなど、毎日10トン、さらには100トンの精製品を追加で生産できるような選択肢や提案を出してくれます。そして、それは大きな利益につながるのです。

シェルのダウンストリーム事業部が現在取り組んでいる、もうひとつのAIテクノロジー・プラットフォームは、SalesforceのEinstein(アインシュタイン)です。システムを通過する運用データを捉え、予測や提案をしてくれる仕組みです。例えば、保守作業の優先順位を設定してくれます。これにより、より優れた意思決定を早く行えるようになりました。

バックからフロントまで

こうしたアプリケーションの活用により、ダウンストリーム事業部のオペレーションのバックエンドは大きな収益を生み出していますが、原油価格が2014年の価格と比べ、ほぼ半分に留まっている中、シェルはAIを活用して、生産量中心型から顧客中心型のビジネスへと移行しています。AIをオペレーションのフロントエンドに活用することで、汎用品ではなく、より個々人にパーソナライズした商品やサービスを提供できるようになります。

そうしたアプローチにより、顧客のロイヤルティ向上も目指しています。AIを使って新しいレベルで顧客知識やインサイトを取得し、サービスを拡大する予定です。その一例が、シェル・コネクテッドカー・オープンAPIです。モバイル機器や車載システムで利用可能なAIで、ユーザーの挙動を分析し、より利便性の高いサービスや特典を提供します。お客様が求めるものを予測し、いつ店舗にいらっしゃるかを確認し、携帯にクーポンを送信します。例えば、『お帰りなさい。今日は特別に、X製品をご購入いただいたお客様にはダイエットコーラが半額あるいは無料となります』などといったものです。その瞬間に、より良いものを売ろうとする試みです。それはまた、収益を上げることにもなります。2016年、開発・生産を担当するアップストリーム事業部が27億ドルの損失を出した一方、ダウンストリーム事業部の利益は72億ドルでした。

シェルでは、社内で実践しているのと同じような意思決定分析を企業顧客にも適用しています。営業担当者が、顧客社内にあるマシン内で石油や潤滑油の性能情報にアクセスし、インサイトを共有できます。航空会社や船舶会社などのお客様にもハッピーになっていただきたいのです。分析から、お客様のマシンが想定したほど商品を活用できていない場合には、違うオイルの購入や購入量の削減も提案しています。お客様とウィン・ウィンの関係を構築しようとしています。分析はそうした付加価値の提供に役立っています。

それが、自身のチームにとって、ひいては会社の今後の成長の鍵だと考えます。ITを活用した顧客との対話の質が、ブランド全体を映し出す鏡になると信じています。重要なことは、お客様の目の前にITをどのように提供するかです。弊社には、強力なブランド力とロイヤリティがあります。ITもそれに匹敵するものでなければならないのです。それが実現しなければ、また、弊社社員がお客様と適切に対話できなければ、お客様も弊社の商品を良いものと信じられなくなるでしょう。