AI時代はCIOに何を求めるのか?

2018年5月

人体から産業用機械、都市交通にいたるまで、あらゆるものがデータ化され、ビジネスや社会問題の解決に活用されるこの時代。さまざまな産業領域で最適化の切り札としてAIの導入が始まっています。AI時代はCIOに何を求めるのか、富士通の首席エバンジェリスト 中山 五輪男はこう語ります。

Q: 産業界にビッグデータの波が押し寄せるにつれ、AIへの期待と関心が高まっています。こうした状況をどう見ますか?

AIというとすぐシンギュラリティ(技術的特異点)というような話がでてきて、機械が人間の知能を超えて進化するとか、ナノデバイスを人体に注入して生体情報や脳内情報をデータ化するとかSFまがいの話題になりがちです。人工知能研究で有名なレイ・カールワイツ氏は、シンギュラリティの到来を2045年ごろと予測していますが、それは「人間」の定義そのものが激変するような大転換点のこと。まだ、そういう状況にはなっていません。

しかし、近い将来、AIはさまざまなパラダイムシフトを起こすだろうと思っています。農業から工業、サービス業までどの業界も、もはやデジタルデータから逃れることはできないからです。そして、これらのデータをうまく活用するためにAIの導入が今後もっと増加すると考えています。

Q: パラダイムシフトというのは、例えばどういう変化のことでしょうか?

ニューヨークの五番街の様子を例にご紹介しましょう。1900年では通りを走っているのは馬車だけでした。しかし、1913年になると馬車が1台もありません。走っているのはすべてT型フォードです。わずか13年の間に通りの様子がすっかり変わってしまいました。つまり、これはモビリティにおけるパラダイムシフトなのです。

注目したいのは比較的短期間でこれが起きたということです。T型フォードが発表されたのは1908年ですから、「わずか5年の間に」と言い換えてもいいかもしれません。パラダイムシフトというのはこのように急に訪れ、すべてを変えてしまうものです。

五番街から馬車をなくしただけでなく、ガソリンスタンドや信号機や免許証などとともに、それまでになかった制度と経済、そして産業を生み出しました。AIもそういう潜在力を持ったテクノロジーだと思います。わたしたちは、いまそのパラダイムシフトの前夜にあるのではないでしょうか。

Q: AIを導入して、期待されている成果は上がっているのでしょうか?

いま、富士通はお客様とともに800近いAIプロジェクトを進めています。たとえば、広島大学の症例検索の取り組みなどがあります。これはAIが患者のCT画像のデータベースから類似する異常症例を検索し、医師のがん診断などに役立てるシステムです。無数のCT画像の中から類似症例を探すために多くの時間を要していましたが、この仕組みのおかげで診断時間を最大約6分の1に短縮できたと聞いています。

ほかにもAIの画像認識を用いて欠品検知を行なっている工場などがあります。ディープラーニングで数多くの製品画像を 学習させ、異常のあるものを瞬時に検知する仕組みを作り上げました。こうしたシステムは製造業のほか、食品の異物混入防止などにも応用できるため、食品加工業界も大きな関心を寄せています。

また以前からコールセンターではAIが稼働していました。コールセンターにはデータベース化された応答履歴があります。膨大なデータから瞬時に有効情報を抽出するというのはAIの得意分野ともいえます。近くAIのチャットボットがオペレーターの仕事の一部を肩代わりするようになるかもしれません。もちろん、こうした取り組みは効果を上げている事例がある一方で、根本的な課題が露呈してしまっているケースも数多く見られます。

Q: AI導入による課題とは、どのようなことでしょうか?

AIの活用領域や所有しているデータについて、検証をせずに進めると良い結果につながりません。

AIにはマシンラーニング、ディープラーニング、画像認識、音声認識など色々な領域がありますが、その根幹はデータの活用です。そのためデータサイエンティストやデータアナリストなど、データの専門家の力が不可欠です。そうした人材やスキルを持たずにプロジェクトを開始すると困難がつきものとなってしまいます。

先ほどのコールセンターの例でも、履歴データをよく調べてみたら、テキスト情報に略語や社内独特の専門用語などの言い回しが氾濫していて、そのままでは使えないことがわかりました。まずAIを理解し、自社のデータ資産を正確に理解することが重要です。

Q: AIを効果的に導入するため、企業はまず何を考えるべきでしょうか?

まず一番にやるべきことは「Future Vision」の策定です。これは自分たちの会社が今後5年、10年の間にどうなっていくのかを示すロードマップのようなものです。しっかり描くためには組織や事業の現状を振り返り、自社がいまどういう状況に置かれていて、これからどの方向に進むのかを注意深く検討する必要があります。まさに経営トップであるCEOの仕事です。

事業も、組織も、人材も、テクノロジーも、この「Future Vision」をベースに編成されなければなりません。AIやロボティクスなどのICTもそのビジョン実現のためのツールとして役立てられます。

Q: ビジョンの実現に向けてCIOの役割も、これまでになく重要になってくるのでは?

CIOの役割は非常に重要です。もともとITがあらゆる事業活動の根幹に据えられはじめた頃からそういう認識は広まっていましたが、今後はますますそれに拍車がかかってくるでしょう。

目を向けるべきは顧客や市場だけでなく、社内の職場環境も同様です。米国のゴールドマンサックスでは600名いたトレーダーがAIの導入によって2名だけになったそうです。残りの598名は幸いなことに解雇ではなく、それぞれがFinTech関連のエンジニアに転身するなどして他部署に異動したそうです。こうしたこともこれからのCIOの仕事に関わってきます。

AIやRPA(ロボットによる業務自動化)をいつどこに導入していくのか、それは社内にどんな影響を与えるのか。CEOの描いた「Future Vision」と整合性を取りながら、社内へのテクノロジー導入も進めていかなければなりません。
そして、これまでは経営といえば「ヒト、モノ、カネ」の活用といわれてきましたが、これからはそこに「データ」も加わってきます。企業資産としてのデータをいかに活かすか。それはCIOの腕の見せどころであり、また新たな悩みどころでもあります。

Q: これからのAI時代に、富士通はどのようなテクノロジーを提供していきますか?

AIをビジネスに導入する際、処理能力も問題になってきます。現行の汎用コンピュータでは、非常に時間がかかってしまうケースも多いのが現状です。そこで、富士通は量子コンピュータと汎用コンピュータの両者の良さを取り入れた新アーキテクチャのコンピュータ「デジタルアニーラ」を発表しました。これは組み合わせ最適化問題においてスーパーコンピュータで数億年かかかる計算をわずか数秒ほどで解くことを可能にします。

こうしたテクノロジーもさることながら、お客様の現場に密着して妥協せず、課題解決に取り組む富士通のエンジニアは業界でも定評があります。これからもこの姿勢を貫きながら、わたしたちはお客様がパラダイムシフトの荒波をチャンスに変えていくお手伝いをしていきたいと思います。

シンギュラリティ

テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうような、来るべき未来のこと

デジタルアニーラ

量子現象に着想を得たデジタル回路を設計し、それによって組み合わせ最適化問題を瞬時に解くことができる新アーキテクチャコンピュータ

中山 五輪男

富士通株式会社常務理事
グローバル コーポレート部門グローバルマーケ ティンググループ 首席エバンジェリスト