システム統合、クラウド、イノベーションで医療環境を活性化

2018年7月

ブラジルの医療グループにおいて、コアとなる技術を大規模に現代化することで、どのように患者のケアを向上させたか、Hospital das ClínicasのCIO、ジャクソン・バーオスがその事例を語ります。

サンパウロにあるHospital das Clínicas(HC)は、ラテンアメリカでもとくに大きな複合型公共医療施設です。他の業界と同じく、デジタル革新の波はここにもやってきています。この複合施設には8つの専門医療施設とそれぞれの付属病院がありますが、IT環境は長年にわたり独自のシステムやソフトウェアにあふれていました。こうした複雑で非効率になりがちな環境を統合したり刷新しながら、そこにデジタルの新しい風を吹き込むことは並大抵の仕事ではありません。2011年以来、ジャクソン・バーオスはその難題に取り組み、いま大きな実りの時を迎えています。

「やるべきことは、はっきりわかっていました」とバーオスは話します。「ばらばらなITシステムをひとつのプラットフォームに繋げ、それを軸に全体をまとめあげようというわけです」。しかし、彼の二つめの使命は、より重要かつ広範にわたるものでした。医療現場を不断に向上させていくため、旧態依然としたIT部門全体にデジタルの思考を持たせなければなりませんでした。

サンパウロ大学医学部の付属機関であるHCは研究においても医療実践においても世界的に有名であるとバーオスは話します。しかし、彼がこのグループのIT部門を任されたとき、それぞれのIT部隊の間に技術力のばらつきが見られました。しかも、その技術にあわせて医療手順が決められていたのです。

長年、IT投資や技術戦略の方向性が定まっておらず、そのためがん科、心臓病科、小児科など専門分野の医療データの統合もまったく進んでいませんでした。その結果、患者の全体像を捉えながら適切な医療を考えることがほとんど不可能だったのです。これこそ一番の問題でした。

クラウドベースの医療インフラ

大改革の前に、取り急ぎ対処すべき課題もあったとバーオスは話します。たとえば当時のHCでは、個人に与えられた電子メールの容量がわずか25MBでした。そのため医師やスタッフたちはWebメールサービスを業務に使っており、患者の個人情報を扱ううえでこれは大きなセキュリティリスクを伴っていました。

「22,000人いるHC職員のうち、病院独自のメールシステムを使っているのはわずか1,000人ほどで、他の従業員はHotmailなどのWebメールサービスを使用していたのです。コミュニケーション基盤というものがなかったのです」とバーオスは話します。この問題は、グーグルの法人向けパッケージ「G Suite」を導入することで解決されました。

クラウドベースのコミュニケーション環境は、まさしくパラダイムシフトだったとバーオスは話します。そしてこれはこの複合医療施設全体のIT戦略の指針になるものでした。

専門分野をまたがり患者情報を把握すべきだと考えていた病院上層部は、システム統合のメリットを理解していました。しかし一方でクラウドベースの管理システムへの移行こそが、サンパウロ自治体の技術担当であるProdesp社が開発し、長年のカスタマイズを経てきた旧来のプラットフォームを置き換えるのに最適であると説得するのに1年を要しました。

最終的に選ばれたソリューションは、ブラジル国内でIT業界3位の規模を誇る医療管理ソリューションプロバイダーMVが提供する「Soul MV」でした。これはモジュール型のWebベースソフトウェアパッケージで、病院や研究所の管理から電子カルテ、サプライチェーンなどに対応しています。

信頼を築く

ハードルの高い改革を前に、技術の他に必要だったのは組織内の信頼でした。「大改革を断行するにあたり、40人ほどからなるIT部隊が頼りになる存在であることを経営層に示す必要がありました」とバーオスは話します。「ITは組織任せだったので、信頼の大半は失われていました」。

Hospital das ClínicasのCIO、ジャクソン・バーオス統合管理システムがHC施設の80%で稼働するようになった現在、信頼は回復したといえるでしょう。2018年末までとする導入計画を加速させるため、IT部隊はインフラ作りに邁進し、ネットワークを診察室まで拡張しました。

「導入はもちろん早く終わらせたいのですが、新しいシステムを展開するたびに現場との調整が必要になります」とバーオスは話します。ITチームの人数が限られているため、展開には時間がかかり、さまざまな気遣いも必要になってくると彼は言います。しかし、Soul MVが稼働しはじめれば、今年中に少なくともHCの半数のシステムはクラウドベースに置きかわります。また、災害復旧やプライベートクラウドの能力を持つ新データセンターの建設も始まっています。

次世代のデータ分析

システム統合によって複合施設内にある膨大な患者データを一元化し、解析することでさらに有益な価値を生み出すことができるようになりました。TableauとRをベースとした病院情報検索プラットフォームも立ち上がりました。これを利用することで、重体の入院患者数、平均診療時間、各専門病院のベッド稼働率など、日々の業務に役立つ情報を手軽に入手できます。調達部門などもこのプラットフォームを活用し、入院患者の衣服から薬剤まで、物品供給の最適化を図っています。

「たとえば病歴から再入院の可能性を測ることができれば、その患者を今日退院させるべきか、それともこのまま入院させておいたほうが得策なのか、コストを踏まえた判断ができるようになります。そうした経営判断に役立てたいのです。」とバーオスは話します。

広がる可能性

プロジェクトの進捗にともない、新しい可能性が芽生えていると彼は話します。医療画像解析や診断用アルゴリズム開発といった分野に機械学習の手法を適用しようと考えているグループもあります。



「短期的に見ても、AI技術を使えばコスト削減や医療サービス最適化に役立ちます」とバーオスは話します。「機械学習は画像診断に有効なので、その分野の技術者たちは自らの改革を迫られるでしょう」。

また、患者のモニタリングや集中治療室用の“スマートベッド”開発など、IoTやIndustry 4.0で用いられる技術は、医療現場にも活用できると彼は話します。

これまでの課題と成果を振り返り、バーオスは、就任当初から上層部の強力な支援が鍵だったと話します。同様の仕事に取り組む人々に対し彼は、経営層にやる気を起こさせるのがよいといいます。HCの場合、医師たちともっと深く関わることができれば、もっと影響力を発揮できたかもしれないとバーオスは残念がりますが、それがいつもうまくいくとは限りません。

「実際、物事を決めるのはIT部門ではありません。IT部門は、経営層の肩をもつことなく技術開発の話をしますが、最終的な経営判断は知っておく必要があります。技術と経営とのバランスをとるということです」。

バーオスは自分たちのこれまでの仕事を誇らしく思っています。「昔と今とでは環境がずいぶん変わりました。パッケージ化されたシステムの導入なんて無理だと思われていましたが、実際には導入できました。しかも、わずかな予算と限られたリソースでやり遂げたのです」。

引用 「物事を決めるのはIT部門ではなく、経営とのバランスをとりながら決めていく必要があります」