Image: Alamy

英スーパーチェーン、セインズベリーズのデータガバナンスと価値創造

2017年9月

イギリスのスーパーチェーンが、EU一般情報保護規則を順守し、商品や買物のデータから価値を引き出す方法とは?

EU離脱決定の影響でポンドが下落するなか、イギリスの小売業は急騰する輸入コストに悩んでいます。国内小売第2位、売上高290億ポンド(約4兆2700億円)を誇り、それをさらに伸ばしているストアチェーン、セインズベリーズであっても、この事態は利益を圧迫し始めています。こうなってくると、従来のやり方は通用しません。同社のデータ最高責任者(CDO)であるアンドリュー・デイは、直営全店舗(スーパーマーケット600店、コンビニエンスストア800店)に蓄えられた膨大な顧客・商品データをこれまで以上に活用しようと、取り組みを始めました。

セインズベリーズではすでに数十年にわたり、データを解析しマクロ的視点と個々の消費者の視点の両面で顧客の購買行動を把握するとともに、実績をベースにして在庫や品揃えの改善に取り組んできましたが、同業他社も同様の施策を行なっており、差別化を図るためにより高いレベルのデータ解析が求められていました。

また同社はデータを企業資産として重視しています。CDOの多くはデータを情報保護とガバナンスの視点で捉えがちですが、デイ氏はそれを価値創造の視点で捉え、データから価値を生み出すことを主な役割と考えています。

アンドリュー・デイ氏
セインズベリーズ データ最高責任者(CDO)
「データを活用して改善できることがあるならすべて実行するようにしています。商品の改良、価格の適正化、店舗レイアウトの最適化、質のいい野菜を作るための生産者との協業、商品の流通管理など、やるべきことはたくさんあります。要するにそれぞれに業務目標を抱えた社員を支援し、全社で最高の成果をあげていきたい、ということです」とデイ氏は話します。

顧客データの活用については、セインズベリーズも他社と同様、うまくバランスをとるようにしています。買物の邪魔をすることやプライバシーを侵すことなく、むしろ役立つようにデータを活用していることを示す一方で、ビジネスのメリットもできるだけ大きくしていく。データの活用は、両者の利益になることがはっきりわからなければならないとデイ氏は考えています。「お客様のデータはお預かりしているだけで、自分たちのものではありません。お客様は自分たちのためにそれを使うことを了承してくれているわけですから、お客様の利益になるようにお客様の立場に立って、お客様のためにならないこと、道理が通らないことには、データを使うことはありません」 とデイ氏は話します。

顧客データの活用にはさまざまな専門的判断が必要ですが、それを支援するため同チェーンでは法律、規制、業務、顧客管理の専門家からなる「顧客データクリニック」を設けています。

一般情報保護規則(GDPR)に備える

データの有効活用のほかにも、まだたくさんの難問があります。2018年5月に施行されるEU一般情報保護規則(GDPR)に順守するため、データの活用や保存を監視するやり方を急いで見直さなければなりません。

GDPRは情報保護の点で従来の法規から大きく一歩踏み出したものであるとデイ氏は考えており、昨年からセインズベリーズはその順守に向けて大掛かりな取り組みを始めています。「明らかに罰則が厳しくなっていますが、GDPRの制定は大事だと思います」とデイ氏は話します。

社内改革の一環として、デイ氏の率いるチームは、セインズベリーズが預かる顧客データの透明性を高めようとしています。「データの主要部分はお買物履歴ですが、それはそのままではわかりにくいので、もっと見やすくしたいと考えています」と言います。

扱うデータはそれだけではありません。顧客データよりむしろ商品データの方が面白いとデイ氏は話します。「一般に小売業で一番大事なのは顧客データだと考えがちなのですが、それと同じかそれ以上に価値があるのが、商品データです。その解析にはお客様の承諾も規則の順守も必要ありません」とデイ氏は説明します。

次世代のデータ解析:AI、NLP、ロボット

デイ氏はまたデータ有効活用の手段として、機械学習やAIに着目しています。

特に興味深いのは自然言語処理(NLP)です。「拡張現実(AR)や知的ロボットと組み合わせて自然言語を処理し、再生することができれば、買物体験を劇的に変える可能性があります。たとえばお客様が、言葉と映像認識をもつロボットに商品の在りかを尋ねたとします。するとロボットはそこまで案内することができます。こうした技術は夢物語ではなく、もはや現実になっています」とデイ氏は語ります。

しかし、ビジネス変革では技術のみでなく、企業文化の改革も必要です。データスペシャリストは管理部門でただ机に座って待っているのではなく、データをより価値あるものとして活用するためさまざまな部門に出かけて担当者と話をするべきだと考えています。

「全社的変革を進めていくわけですから、それぞれの分野の最高責任者も含め、経営陣全員がデータ解析やデータサイエンス、AIについて学び、その話ができるほどに習熟する必要があります」とデイ氏は話します。ビジネスの課題に技術を使うというのは、いまに始まったことではありません。「課題に対しては、人、データ、技術をうまく活用する。その点は変わりません。しかし使うべき技術は、日々進化し続けています」。

※ 本記事は2017年9月に発行されたもので、アンドリュー・デイ氏は2018年9月にグローバル金融サービスグループのPepperのデータ最高責任者(CDO)に就任されています。