デジタル革新をさらに進めるBMW

 

2016年6月

高級自動車メーカーBMWのCIO、クラウス・ストラウブ氏が、ITチームにコネクテッド・カーをリードさせている理由について説明します。

デジタル革新が企業の経営課題の上位に取り上げられるにつれて、多くの経営幹部はデジタル化の主導権を自ら持つ必要があると判断し、しばしばIT担当者を排除しようとしています。しかし、自動車業界ではその逆のことが起きています。

クラウス・ストラウブ氏(BMW, CIO) 今後10年間のデジタル化のフェーズにおいて、IT部門の各部署は強力な役割を持つでしょう。BMWだけでなく、VW、アウディ、GM、フォード、ダイムラーなど自動車業界のIT部門にいる人達は同じことを言っており、変革の多くを推進しています。

BMWが次の10年に向けて、新しく創った企業ビジョンでは、そのようなIT部門の役割がとても明らかになっています。「デジタル化が未来への推進役である」という確信とともに、CEOが3月に、”NUMBER ONE>Next”の戦略を発表しました。その証として、BMWの歴史において初めて、IT部門のトップが、通常はエンジニアとビジネスリーダーで構成される限定的な戦略策定チームに招かれました。

これは、「2つの世界」の融合が進みつつあることを示しています。過去には、車の世界とビジネスの世界が別々に存在し、つながっていませんでした。当時、自動車を設計する際、IT組織は関与していませんでしたが、現在では深く関わっています。

現在、自動車のITシステムを設計し、実装する際には、例えば、どの機能を組み込み、何をバックエンドから持ち込むか、またIT機器とどのようなつながりが必要か、どのサードパーティのサービスを適用するかを決定する必要があります。IT部門は実装を担当するので、最初から議論に参加する必要があります。

デジタル化の象徴

今後10年間で自動車業界のデジタル化の進展に3つの領域が大きく関係します。

1.コネクテッド・カー

BMWは既に自社の車に、他社よりも多くのつながりを持たせており、600万台の車がインターネットに直接つながっています。これにより、自動運転の可能性を広げ、クラウドやバックエンドのITインフラから提供されるサービスを増やし、さらには機械学習やビッグデータ分析を活用してドライブ体験を向上させます。

“自動車業界では、今までの競合他社に加えて、私たちとは異なる考えを持つIT業界を加えた競争が始まっています。”

これは、既存サービスを典型例として、BMWがビジネスモデル全体に、より多くのITを取り入れる必要があることを意味します。BMWは、交通渋滞、道路工事、事故などの公的情報を収集して、運転手にリアルタイムの交通情報を提供しています。しかし、それと同時に、インターネットにつながる600万台の車から収集したデータの動きを常に分析し、公共サービスとの比較を行っています。交通渋滞を本当に避けるべきなのか、実際は流れているのかを判断できるように、その結果を運転手に提供しています。

このようなコネクテッド・カーのサービスを提供するにあたって、BMWは異なる業種からの新しい挑戦者と戦うことになるでしょう。自動車業界では、GM、Ford、VWなど従来の競合他社と並んで、異なる考えを持つIT業界からの競合も増えています。例えば、テスラ、Google、Appleを最大の脅威と考えています。

2.顧客中心の考え方

デジタル化はまた、顧客ニーズに、より焦点をあてて進められています。顧客体験は過去10年間において、明らかに重要なトピックでしたが、今後さらに強化されていくでしょう。そして、それはBMWのConnectedDrive(コネクテッド・ドライブ)のようなテクノロジーが、顧客をメーカーに近付ける方法と多いに関係しています。歴史的に、BMWは、ほとんどの車をディーラー経由で販売しており、小売店の90%はBMWとは独立しています。しかし、ConnectedDriveによって、初めて顧客と直接つながり、顧客、小売業者、メーカーの活動を同期させることによって、顧客は360度、あらゆる場面でサービスを受けることができます。

会社間で作られる「データレイク(データの湖)」を活用した、顧客および小売店向けサービスのプロジェクトに注目しています。特に中国では、中古車の走行距離の読み取りが困難になっています。しかし、データレイクの過去のデータを組み合わせることで、自動車の走行距離を小売店や顧客に示せるようになりました。

3.インダストリー4.0

IoT、機械学習、ビッグデータを製造業に適用することで、自動車産業では、製品開発、受注生産、アフターセールスなどにおいて大きな影響を与えられると考えられています。BMWはすでに、このインダストリー4.0時代に生まれる変革を見越しています。

大きな可能性の一つは3Dプリンティングです。BMWは印刷専用の部品と3Dプリンターを使ってプリントし、プロトタイピングの効率とスピードを向上させる計画です。

組み立てラインでは別の急進的な開発が進んでいます。機械が生産に参加するようになり、製造プロセスにおいては機械と製造中の製品が相互に干渉し合うようになります。これは品質向上の可能性をもたらします。

さらに、部品の状況、寿命、使用に関する情報が継続的に提供されることにより、販売後のアフターサービスと製品開発の両方が強化されます。

IT部門の再考

このような全社的なデジタル破壊は、BMWの4,000人の強力なIT組織のあり方に大きな影響を与えます。

これまでのソフトウェア開発は、主としてプロセス指向でした(SAPを活用した事例が世界で90~100件あります)。しかし、現在のデジタル時代においては、スピードを持って提供する必要があり、アジャイル・ソフトウェア開発プロセスへの移行が進んでいます。昨年、開発した新しい機能ではスピードが大きな目標でした。しかも、ハイブリッドやバイモーダルで動かせる必要もあります。

“過去、車の世界とビジネスの世界は、つながってはいませんでした。”

進行中の第2の大きな変化は、ITをビジネスに近付けることです。過去数十年間、ITの大部分はビジネス・オペレーションのコストを削減するために使われていました。多くの場合、IT部門の一部を第三者に委託し、ITリーダーの仕事は、複数に渡る外部パートナーの管理になっていました。それが今、まさに変化しています。我々は、特にアジャイル領域を中心に、ますます多くのことを自社で行うようになっています。

BMWでは、よりアジャイルになるには大幅なリソースの再配分が必要であり、最近600人の従業員を日常業務から離し、サイバーセキュリティ、ビッグデータ、SAP HANAなどの新しい分野に再配置しました。

結果は本当に驚くべきものです。2015年には、約500のITプロジェクトを実行するという複雑な状況であったにもかかわらず、BMWのITチームはISO-9001品質の認証を受けました。そして、それは真の顧客利益につながっています。2015年は非常に安定しており、224万台の車を生産し、ITが関係する損失は1年間で約1,200台だけでした。

データレイクの構築

将来の成功への鍵はビッグデータを活用する能力と考えています。その領域は、ビジネス・インテリジェンスやデータ・ウェアハウジングの分析だけでなく、マシンラーニングの新たな分野にも及んでいます。

しかし、完全にビッグデータを有効的に活用する前に、BMWは昨年テラデータ上にデータレイクを構築するという決断を下しました。 これは、大きな企業文化の変化です。なぜなら、これまでは開発、生産、調達などの機能ラインごとに各々のデータを保有していたからです。現在では、私たちはこれを大規模なデータレイクに統合し、組織全体を包含するようにします。

“今後5年から10年で、プロセス品質を最適化するためにマシンラーニングを活用する可能性があり、より効率を上げることができます。”

このような統合は、IT組織が中心となり、CIOのタイトルはチーフ・インフォメーション・オフィサー(最高情報責任者)ではなく、チーフ・インテグレーション・オフィサー(最高統合責任者)の方が現状をよりよく反映していると感じています。

統合は地理的にも不可欠です。例えば、2017年からは世界中の顧客に同じ技術を多く提供することを目指しています。ConnectedDriveを搭載した7シリーズなどの新しい車を10カ国で発売する際、3~4ヶ月の間にこれらの全地域でカー・コネクティビティを実現する必要があります。

未来を考えると、次の大きな革命がマシンラーニングとともに来るでしょう。自動車に関して言えば、それは自律走行車が現実になるのでしょうが、調達や会計なども自律的な機械によって大幅に強化されることで、一般の経営管理にも大きな影響を与えるでしょう。

今後5年から10年で、プロセス品質を最適化するためにマシンラーニングを活用する可能性があり、より効率を上げることができます。マシンラーニングは次の大きな波になるでしょう。これは、データが将来は付加価値の源泉となり、自社の製品を最適化し、より優れた顧客視点を獲得し、ビジネスモデルを最適化できるようになることを意味します。

また、IT部門の役割の変化が加速するでしょう。これまで、私たちはサービス・プロバイダー以上の部門ではありませんでした。その後、私たちはビジネス事業者になりました。しかし、次の段階で、マシンラーニングが関与すると、ビジネス上の責任を負うことになるでしょう。また、戦略的成功を決定づける能力は過小評価されるべきものではありません。IT部門が価値を提供しなければ、企業全体が問題を抱えるでしょう。次の10年は、自動車業界にとって、そしてIT部門にとって革命の時期になるでしょう。

・クラウス・ストラウブ氏は、ハンブルクのTeradata Universeで基調講演を行いました。