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共創から生まれるデジタル・フロンティアの探索

2017年11月

先日、シンガポールで開催された富士通アジア・カンファレンスで、基調講演の講演者達はデジタル時代におけるビジネスの成功は、テクノロジーにおける緊密なパートナーシップと実験をいとわない態度から生まれてくるということについて議論しました。

AIやIoT、ビッグデータ分析やAR(拡張現実)まで、高度なデジタル技術はほぼ全ての業界で破壊の波を起こしています。こうした変化のペースに付いていくには、企業規模でのデジタル革新が必要です。また、新たなビジネス・モデルを模索しようという意欲も求められ、多くの場合、主要なテクノロジー・パートナーからの支援も必要となります。

シンガポールで開催された富士通アジア・カンファレンスでは、ソート・リーダーや企業役員らの基調講演でも、こうしたデジタル共創の必要性が重要課題として挙げられていました。本カンファレンスは、6大陸、25カ国に渡り開催され、テクノロジーや専門性が発表された、Fujitsu World Tour 2017の一貫とされています。

デジタル革新の共創

グローバル・テクノロジー・カンパニーである富士通が本イベントで紹介した事例2件はいずれも、企業が潜在的な破壊的テクノロジーと新規ビジネス・モデルを活用する必要性を強調したものでした。The Fujitsu Digital eXperience Centreは、お客様が新たなデジタル・バリューチェーンを見つけ、コラボレーションを実現させるテクノロジー・アクセレレーション・プログラムの一つで、そのバリューチェーンの強化やスケールアップを可能にするプラットフォームでもあります。富士通シンガポールの社長であるウォン・ヘン・チュウはDigital Co-creationに関心を持つお客様とディスカバリー・セッションを既に60回以上実施していると述べました。チュウによると、官民両方のパートナーは「ローカルでも地域においても、競合から抜きん出ること」を目的としているそうです。

富士通シンガポールの大きな成功事例の一つが、ヘルスケア分野のスタートアップ企業、ConnectedLifeとの協業です。自宅にいる高齢者の状態を遠隔監視し、ケアを提供するシステムを開発しました。ConnectedLifeのダリル・アーノルド会長は、シンガポールで一人暮らしをする人の3人に一人が65歳以上であり、多くの先進国も同様の状況である、と語りました。

富士通との共創によって、より多くの高齢者の安全で自立した生活の実現を可能としました。ConnectedLife 会長 ダリル・アーノルド氏

ConnectedLifeは富士通の革新的な音声センサー・分析技術の統合により、健康と安全確保のためにユーザーフレンドリーで強力なソリューションを開発しました。「単なるモーションセンサーの枠を越え、咳や呼吸の乱れ、過剰ないびきなどの事象を特定し、自宅で異常が発生しているかどうかを把握できます」とアーノルド会長はこのクラウド・ベースのサービスについて語っています。

また、Fujitsu UBIQUITOUSWARE(ユビキタスウェア)リモートモニタリングシステムに内蔵された機能を使い、医療従事者やコールセンターに緊急通話を発信することもできます。「アルゴリズムにより、異常があるか予測できるため、高齢者が自立して一人で生活できます」とアーノルド会長。

未来の工場

シンガポール政府は、都市国家として、世界的に優位性のある経済と堅牢な社会インフラを創造できるイノベーションを常に活用すべきであることを重視しています。シンガポールの科学技術研究庁A*STARの事務局長、Tan Sze Wee教授は、テクノロジーの進化とグローバル化により、従来のビジネス・モデルの脆弱性が増していると強調しました。つまり、企業と公共部門は、市場を見直させるテクノロジーを積極的に受け入れる必要があるのです。

製造業は、AIやIoTの利点を活用して生産性を加速していく必要があります。シンガポール科学技術研究庁A*STAR 事務局長 Tan Sze Wee教授

製造業は、シンガポールのGDPの20%を構成する柱です。AI、IoT、3Dプリンティングなどの付加製造(AM)、その他のテクノロジーの利点を活かす準備をし、生産性を急増させなければならないのです。

富士通とシンガポールの再製造技術開発センター(ARTC: Advanced Remanufacturing and Technology Centre)は今回のイベントで、製造業のデジタル革新を加速するための3年間の提携について発表しました。今回の提携において富士通は、企業の競合優位性につながる新たなテクノロジーやテクニックを、様々な試験環境で実験できるモデル製造施設であるARTCの「Factory of the Future」に専門知識とテクノロジーを提供します。

ARTCのCEOであるデービッド・ロー氏は次のように述べています。「A*STARや50以上の産業パートナーとの協業的な取り組みであるARTCでの協業分野はすでに複数設定されています。たとえば、富士通のEngineering Cloud Platformへのアクセス、インダストリアルIoT、ウェアラブル・テクノロジー、スマート・ファクトリーにおけるサイバーセキュリティ、AR(拡張現実)とAI機能などです」

離陸準備OK

IoTの本当の価値は、製品の完全なライフサイクルを追跡できることで生まれます。ロールスロイス社 IoTグループ長 サチン・グプタ氏

こうした課題と機会の実例について、ロールスロイス社のIoTグループ長であるサチン・グプタ氏がインダストリアルIoTやビッグデータの応用について語りました。ロールスロイス社の取り扱う商品は数千存在し、顧客とのタッチポイントも数多くあります。これらの現在と将来のタッチポイントから流入する大量のデータをいかに活用し、より良い意思決定を行い、ビジネスを最適化していくのかが課題です。

そこで、IoTの産業化が重要になってきます。IoTの本当の価値は、商品が工場を出て、お客様が実用する段階まで、完全なライフサイクルで追跡できるようになることで生まれてきます。「商品がライフサイクル中に直面した問題をデザインチームに送るようになれば、生産チームにもフィードバックを提供できるようになります」とグプタ氏。

ロールスロイス社は、シンガポールで二面戦略を開始しました。一つ目が、A*STARとの協業による製造・IoTセンターの立ち上げです。「ここに、様々な業界のプレイヤーやエンドユーザー、スタートアップ企業が集まり、どのようにテクノロジーを開発し、事業に組み込めるのかを検討しています。さらにパートナーシップによりテクノロジーを次のレベルに高め、イノベーションを促進します」とグプタ氏。

二つ目の戦略として、ロールスロイス社は社内ラボを設置し、既存のIoTテクノロジーを迅速に活用し、価値を即座に実現できるプロトタイプ環境である「sandpit」に新たなデータ・プラットフォームを実現する方法を検討しています。

ヒューマン・セントリック・イノベーション

この点に重点を置き、企業は今、行動する必要があるのです。「何もしなければ、破壊される立場になるでしょう」と富士通のマーケティング戦略本部 VPの高重吉邦は語りました。そこでは、Fujitsu Technology and Service Visionを例に取り、富士通自身の事業や社会にさらに大きな価値を提供することを目指した「よりオープンでイノベーティブな企業になるための革新の旅路」を紹介しました。

高重は、産業期は終焉に向かっていると指摘しました。「これまでの時代は、サプライヤーは標準化された物やサービスを大規模に提供していました。現在、価値はデジタル技術を活用するパートナーやお客様によって、共創されています」そして、デジタル化によって取引コストが大幅に低減されたため、縦の統合はもはや競合優位性に繋がるものではないのです。

人の創造性をデジタル技術や知見と組み合わせて新しいビジネスの創造を進めています。富士通マーケティング戦略本部 VP 高重 吉邦

その結果、Digital Co-creation(デジタル革新の共創)が、功を奏し、有効性を保持する方法になっていると高重は語りました。ビジネスの専門性をパートナーのデジタル技術と融合させ、新たな破壊的なイノベーションを形作ることも必要です。しかし、その裏にいるのは、すべて『人』なのです。

「イノベーションを実現するのは、人々の想像力です。人の想像力とAIなどのデジタル技術や知識を組み合わせた、新しいデジタル・ビジネスの労働力の開発も進んでいます」と高重は語ります。その例として、富士通とマドリッドのサンカルロス医療研究所におけるメンタルヘルスの取り組みを紹介しました。

世界の1年の自殺者数は約80万人、そのうち90%はメンタルヘルスの問題に関連した死です。サンカルロス病院では、自殺の可能性のある患者を特定し、適切なケアができないかと考えていました。

マドリッドに拠点を置くサンカルロス病院と協力し、富士通はヒューマン・セントリックAIであるZinrai(ジンライ)を活用したシステムを共同開発しました。36,000件のカルテ、100万件を超えるオープンデータや医療記録を分析、学習しました。自殺のリスクが高い患者を特定するようシステムをトレーニングさせ、同じデータを臨床医が分析した場合と比較したところ、85%以上の精度での特定を実現できました。違いは、わずか数秒で評価し提案を出せる点で、臨床医は空いた時間を患者の治療に充てられるようになりました。

また、高重は、富士通の中核的なビジョンや本質的にヒューマン・セントリックなイノベーションを示した例なども紹介しました。