Illustration: David Senior

AIの未来に取り組む銀行

2017年8月

人工知能は間違いなく金融業界に革新をもたらすでしょう。UBS、ING、ロイズの大手銀行3行が、それぞれの革新へのアプローチについて語ります。

競争が熾烈な金融業界では、人工知能(AI)をベースとした自動化により、かつてないレベルで生産性の向上や顧客サービスの改善だけでなく、ビジネスモデル革新の実現が期待されています。しかし、それを機会と捉える人々がいる一方、脅威と捉える人々もいます。AIの台頭は、過去のどの技術とも異なる形で、雇用を脅かしたり、個々人が自律的に働くことを制限したりするのではないか、といった懸念が市民の間で高まっています。

AIを基盤とするチャットボットによるサービスやオペレーションの改善のほか、インテリジェントなアルゴリズムによる証券取引・分析の支援や、プロセスの自動化を考える場合も、銀行は上記のような懸念に十分に配慮しつつ、システムを導入しなければならないことを認識しています。今回お話を伺ったITリーダー3名の意見は多くの点で一致しています。特に、AIは従業員の仕事を奪うものではなく、従業員の業務を支援するもの、という点を従業員に伝え、安心させる必要がある、という点です。しかし、AI導入のペースや導入レベル、そして適用領域については、意見が大きく異なっています。

UBS: 今行動せよ、しかし焦るな

スイスで第一位の銀行であるUBSは、すでに確立された自行のイノベーション・チャネルを通じて、AI技術への関心を高めています。小規模の導入から開始し、その後テクノロジーが十分に成熟したと判断した時点で、より広範囲への展開に向けて注意深く検討する、というアプローチをとっています。

「ベンチャーや金融業界がAIの新たなアプリケーションへの資金提供を急増させたことを受けて、2016年初頭にAIプログラムを立ち上げました。弊行は知見を得るべくアンテナを張り巡らしており、世界各地の従業員からアイディアを集め、ハッカソンやフォーカスデイを開催し、スタートアップ企業や戦略的ベンダーと話を進めています」とグループ・イノベーション担当ディレクター、アニカ・シュローダー氏は語ります。

上位に残ったアプリケーション提案は、イノベーション委員会で議論されます。イノベーション委員会は、全社の中核組織から集まったITおよびビジネスのステークホルダーで構成されています。「起業家が支援を求める場合と同様に、プロジェクトを3ヶ月以内に設定、かつ多額の費用がかからないことを前提としてプロジェクトへの投資を提案します」とシュローダー氏は説明します。成功率から判断して、選ばれたアイディアはかなり強力なものばかりだったようです。

UBSのイノベーション・プログラムのプロジェクト全体のうち、その約3分の1を現在AI駆動型のアプリケーションやサービスが占めています。このプログラムでは、ブロックチェーンやIoTなど、既存の概念を打ち破るようなテクノロジーの応用も検討しています。AIは、顧客サービスやオペレーションのほか、リスクとコンプライアンス、投資とトレーディング、サイバーセキュリティに至るまで、様々な事業領域で活用できる可能性があります。

これまでの結果は様々です。例えば、同行では顧客サービスにチャットボットの活用を検討しましたが、広範囲に展開するには、不十分なものでした。「社内でトライアルをした結果、理解の精度はわずか60%から85%で、お客様向けに運用するには不十分だと判断しました」とシュローダー氏は語ります。

「投資調査用のAIエージェントの利用がより有望と見られていますが、同様に、まだピーク時の対応は難しいようです。AIエージェントは投資アナリストの役割を模倣しますが、これもまだ実験段階です」と同氏。

プロジェクトごとに見ると、AI技術は実環境に浸透してきています。例えば、UBSでは不正行為を特定する目的で、1日に数百万件のメッセージに対し、推論技術を採用しています。運用上、初めて検証システムから本番に移行したプロジェクトは、ITのサポート・チケットを読み取り、最善の解決法を見つける機械学習ツールでした。

AI技術は従業員の活動にとって脅威ではない、とシュローダー氏は語ります。「AIに対して多くの人が、あまり合理的ではない脅威を抱いているようですが、人は今でも銀行のビジネスにとって、非常に重要な存在です。人が持つ想像力のほか、プロジェクト管理、システム設計、そして計画・検証システムにおけるスキルはかけがえのないものです。ロボットと人は協力関係を築いていくと私は考えています。AI技術に関するセッションを従業員向けに開催し、彼らの恐怖感を和らげられたら、と考えています」。

シュローダー氏からは、AI技術を模索したい企業に、「今やることです。試すことに大きなリスクはないのですから。AI技術はこれからも大きく進歩する必要がありますが、今は最低限には達しており、そこは無視するわけにはいきません」とのアドバイスを頂きました。

ING銀行: 人のためのAI

オランダに本社を置くグローバル銀行INGのアプローチは、ピープルセントリック(人が中心)です。上級経営陣が納得するだけでなく、従業員や顧客からも支持が得られるプロジェクトに重点を置いています。

「どのAIプロジェクトも、いかにビジネスを前進させるかを示す必要があります」とロボティクス兼AIのグローバル・ヘッドを務めるヴィノス・ラマン氏は語ります。「エンドツーエンドでプロセスを改善し、魅力的な新商品やサービスを作り出す方法として位置付けられるべきです。大きな革新を起こし、AI技術のメリットをさらに可視化するユースケースであれば、経営陣も納得するでしょう」。

INGではその一例として、従来のルールベースの異常検知システムから、機械学習アルゴリズムを基盤としたものに置き換えました。これまでのテストから、性能の大幅な改善(テクノロジー・アップグレードで通常得られる改善よりも5%から10%高い数値)が期待できます。そこがマネージャたちの関心をひいたのです、とラマン氏。

こうした技術を展開し、最善の効果を発揮するには、組織変更が必要となるため、トップダウンのサポートが必要不可欠です。同時に、従業員からのボトムアップの支援も見落とすことはできません。そのためINGでは、同行の世界中の部門が革新的なプロジェクトに貢献し、アイディアに取り組む一体化モデル、「community of excellence」を構築しました。全行員がテクノロジー活用に関われると感じられる仕組みです。

特に皆様の貴重なデータを活用したいと思うのであれば、お客様の心を掴む必要もあります、とラマン氏は言います。「より多くの主要な顧客を魅了し、より多くのトランザクション・データを蓄積しようとしています。そうしたデータが、魅力的なAI商品やサービス開発の鍵となるのです」。

例えば、銀行のウェブサイトにチャットボットを追加するというだけでなく、FacebookやWhatsAppといった人気のソーシャル・プラットフォームなどお客様がいるところに、こちらからアプローチしていく必要がある、とINGは確信しています。そして、開発中のボットを使い、銀行の新しいフィールドでお客様とのやりとりを実現するのです。「そうすれば、お客様は、サービスや製品を使うためにわざわざ別のチャネルに行く必要がなくなるわけです」とラマン氏。

どのAIベースのシステムにも言えることですが、本番環境で稼働する場合、人との協働を前提とするならば、そのシステムが人の望みや期待通りに動くことが必要不可欠です、とラマン氏。INGのように、グローバルな顧客がいる場合、AIシステムはその顧客が話す言語をすべて理解しなければなりません。それが開発に複雑性をもたらします。

ステークホルダーがマネージャであれ、従業員であれ、または顧客であっても、人を重視するというアプローチが、INGのAIの取り組みを加速させ、競合他社との差別化につながっているのです、とラマン氏。「AIが人の仕事を奪うことはなく、むしろ、人の価値を高めてくれるでしょう。しかし、最大の価値を付加したいのであれば、AIが人と共に働く必要があるのです」。

ロイズ銀行: AI活用で先行

ヨーロッパの金融ハブに位置するイギリスの銀行は、自行をイノベーションのリーダーでありたいと考えています。ロイズ・バンキング・グループは間違いなく、AIの取り組みにおいて他行よりはるかに先んじています。ロイズ銀行やハリファックス、スコットランド銀行、スコティッシュ・ウィドウズなどの著名な金融ブランドを擁するロイズ・グループは、人工知能をビジネスの様々な部分において、その中心に位置づけるという計画を推進しています。

「銀行での仕事の仕方や意思決定の方法を根本的に変え、その結果、従業員や顧客のエクスペリエンスがさらにパーソナル化され、関係性が深まり、かつ改善すると信じています」と同グループのデジタル・応用科学開発担当ディレクターのマーク・リエン氏は語ります。

「ロイズでは、高度なコグニティブ技術、機械学習アルゴリズム、プロセスの自動化を事業全体に展開しています。「ラボでいくつか実験をしている、というレベルではなく、企業での展開へと拡大しています」と同氏。

例えば、インテリジェント・チャットボットを使って、お客様へのウェブチャット・サポート機能を改善しています。「このようなスマート・アシスタントがお客様の問い合わせを解決します。また、解決できない場合には、人のオペレーターにつなぎます」とリエン氏。

しかし、お客様の意図を理解し、問題を解決する能力を向上させるために、まず行内にチャットボットを展開することで、銀行員が顧客の質問に対して、より迅速かつ効果的に回答できるよう支援しています。ボットは目の前の様々な問題を解決することで学習し、さらにスマートになります、とリエン氏は語ります。「クライアント・マネージャから電話オペレーターまで、お客様対応担当の従業員は数万人に上ります。チャットボットは、従業員が必要な情報を銀行の情報データベースから届けてくれます。インターフェースが改善した段階で、お客様にもテクノロジーを展開する予定です」とリエン氏。

同行では、AIのゴールは従業員の仕事を奪うことではなく、より良い仕事をするために支援すること、と明確にしています。「私たちにとって、これは単なる自動化ではなく、機能の拡張なのです。優秀な人材に極めてスマートなテクノロジーを組み合わせ、優れた結果をもたらそうとしているのです」。

こうした考え方は、既に以前からAIを活用する分野として注目されている、同行の不正検知システムに対するアプローチにも当てはまります。そのアルゴリズムに注目するにとどまらず、ロイズではAIを使って、お客様や従業員のワークフローにインテリジェンスを組み込もうとしています。

リエン氏はまた、生産性の向上についても強調します。「主にオープンソースのツールやプロジェクトから、多くのコグニティブや機械学習のコンポーネントをプラグインできるようなアーキテクチャを構築してきました」社内用に初期に開発したツールは、ソフトウェア開発を加速するものでした。

「お客様に、オンライン商品のベータリリースのフィードバックの提供を依頼しました。深い分析をするために必要だからです。これまでは、チームが全てに目を通して、うまくいったもの、そうでないものを把握していました。今は、ツールがリアルタイムかつインテリジェントにフィードバックを分析し、展開時点でのお客様の感情をうまくまとめて出してくれます」とリエン氏。つまり、プロダクト・オーナーらは変更を加えて、次のプロダクト・リリースに移行するために、数日、または数週間待つ必要がなくなるのです。

ロイズはこれまでの道のりで多くを学びましたが、そのうち最も重要な教訓は、適切な思考を持つことです。「AIは組織の一方で取り組んで、ビジネス・イノベーション・チームには好き勝手にさせるという類のものではありません。あらゆる革新の中核であるべきです。企業全体で、規模感を持って動く必要があります」とリエン氏。

・ アニカ・シュローダー、ヴィノス・ラマン、マーク・リエンはロンドンのTechXLR8で講演をしました。