デジタルで成功するための10の秘訣—
イギリス大手小売業ジョン・ルイス

2017年7月

イギリスの小売業でモバイル・アプリ戦略を率いるトム・ルーニー氏が、同社が辿ったデジタル化の道のりから得た教訓をご紹介します。

ジョン・ルイスは、絶えず前進し続けることによって、150年以上の歴史を刻んできました。ジョン・ルイスは、ジョン・ルイス・パートナーシップの傘下にあるイギリスの老舗小売業です。グループ全体で、46店舗の百貨店、354店舗のウェイトローズ・スーパーマーケットを有し、イギリス国内で第5位の規模を誇っています。ジョン・ルイスはここ15年ほど、商品をオンラインで購入し、店舗で引き取る販売方法(click-and-collect)や、イノベーション・ラボの設立など、オンラインやモバイル・コマースのアプローチの多くを他社に先駆けて取り組んできました。ロンドンで最近開催されたTechXLR8カンファレンスで、モバイル・アプリ&インストア・デジタル担当上級プロダクト・マネージャのトム・ルーニー氏がデジタルにおける小売業の成功に関する10の知見を共有しました。

1. 現代のショッピング・ジャーニーはより複雑に

現在、ジョン・ルイスの売上の40%は、オンライン・チャネル(ウェブサイトおよびモバイル・アプリ)経由ですが、その他のチャネルと分離して考えていては、もはや意味がありません。調査、購入、配送からアフターサービスまで様々なチャネルが混在した状態で使われています。お客様がオンラインで購入したとしても、購買意欲は別のところから始まっている可能性が高いのです。例えば、店舗で何かを目にしたけれど、配達してもらえるようオンラインで注文したりします。会社の戦略的決定は、こうしたチャネル・ホッピングの複雑さを考慮したものでなければなりません。店舗やウェブサイト、全ての設計に影響が出てきます。

2. お客様は話したがり

お客様が購入までに辿る道のりを正確に予測することは不可能になってきています。しかし、ジョン・ルイスではそれを把握する必要がないと判断しました。お客様は、私たちのブランドに関して、とても楽しそうに話してくれます。お客様を招いて、行動をモニタリングする大規模なラボを備えているとはいえ、こうした設備のない小売業でも同様の知見を手にいれることができます。お客様と話すのは簡単なことです。自分の考えをお話しされるのが本当に好きだからです。Googleで「ゲリラ・テスト」と検索すると、たくさんのヒントやテクニックを得ることができます。

3. スマホ・ファースト

お客様は、ますますスマートフォンを使って買い物をするようになっています。過去3年間のクリスマスにおけるオンライン・ショッピングにおいて、スマートフォンの使用が他のデバイスを上回っています。2015年にはタブレットを上回り、昨年はデスクトップを超えました。スマートフォンはいまや、ジョン・ルイスでオンライン・ショッピングをする人にとって、最も多く使われている手段なのです。その意味する所は、明確です。デジタルを検討するなら、スマホ・ファーストで考えるべきです。

4. (まだ)携帯とタブレットは異なるデバイス

多くの人が、タブレットを単に大型のスマホとみなしています。しかし、サイズによってお客様の行動が変わってくるのです。1日のうち、ジョン・ルイスへのアクセス時間は、デバイスごとに異なっています。通勤中は携帯を使う傾向にあり、仕事中はほとんどのアクティビティがデスクトップかラップトップから行われています。夜になると、タブレットに変わります。タブレットを使っている場合、お客様のページ滞在時間は長くなりますが、携帯を使っている方が閲覧頻度は高くなります。ウェブサイトやアプリ、オンライン・サービスのデザインでは、こうした違いを考慮することが必要不可欠です。スマートフォンは大型化し、今後、その違いは今ほど際立たないかもしれませんが、人々のデジタル習慣を観察し続けることも重要です。

5. 全ての製品ページは新たなトップページ

お客様がトップページからウェブサイトにアクセスする、という前提はもはや通用しません。全閲覧の約3分の1は、トップページではなく、製品ページから始まっています。お客様がサイトを閲覧する際、トップページを「アンカー」とみなしていることは軽視できませんが、だからといって、お客様が必ずトップページを見るとは限りません。つまり、トップページだけにキャンペーンやブランディングのメッセージを配置していては駄目なのです。ウェブサイトとアプリ全体でのブランディングを考える必要があります。例えば、ジョン・ルイスのモバイル・サイトでは、「never knowingly undersold(どこよりも安く)」のリマインダーが「かごに追加」のボタンの近くに配置されています。

6. アプリはウェブサイトではない

多くの小売業では、メインのウェブサイトの体験をそのままモバイル・サイトやアプリに反映していますが、ジョン・ルイスは、アプリがより価値ある顧客エンゲージメントを実現するとしています。お客様の10%が、売上の40%を担っていますが、こうした人たちをアプリのターゲットにしています。ジョン・ルイスのアプリは、My John Lewisというロイヤルティー・プログラムと連携しています。例えば、メンバーがレジで携帯を振れば、カードが表示されます。商品を購入すると、アプリのKitchen Drawer(キッチンの引き出し)セクションにデジタルのレシートが表示されます。更に、バーコード・スキャナーを搭載するなど、アプリをお客様の店舗体験の改善にも利用しています。アプリがお客様の購入体験を向上させてくれるのです。

7. 店舗にいる仲間も忘れずに

店舗は今、厳しい状況にあります。お客様はスマホを使い、店舗の商品に関する詳しい情報(競合店の価格を含む)を即座に検索できます。しかし、多くのスタッフが依然として旧世代のPOSシステムに苦しんでいます。店舗のスタッフよりお客様の方が、その店舗のビジネスや在庫について詳しいこともよくあります。スタッフがお客様にオンラインで確認するようにお願いしなければいけないことも時々起こっています。ジョン・ルイスは店舗スタッフにiPhoneを配布し、お客様と同じレベルで対応できるように取り組んでいます。しかし、最新技術に投資するリソースがなくても、スタッフを教育し、スマホを駆使したお客様に圧倒されないようにすべきです。そうすれば、バーコードをスキャンしている人や商品の写真を撮っている人を見かけた時にも、自信をもってお客様に声をかけられるようになるでしょう。

8. 課題を言い訳にしない

新しいテクノロジーは古いシステムに多くの要求を突きつけ、その結果として私たちは最もやりたかったことすら最も困難に思うようになってしまいました。例えば、数十年使っていた店舗内のシステムは、リアルタイムの在庫情報をオンライン・システムに反映することができませんでした。ジョン・ルイスでは、こうした問題解決のためにAPIを構築し、デジタル・サービス機能を改善しています。必要なデータの取得は本当に困難かもしれませんが、困難だからといって目を背けてはいけないと気付きました。時間は掛かりましたが、ようやく実現できそうなところまできて、嬉しく思っています。

9. しっかり「No」という

あなたのビジネスで、今必要とされる新しいテクノロジーだけを導入してください。小売業に魅力的なツールはたくさんあるでしょうが、ほとんどはすぐに効果が出るものではありません。テクノロジーを押し進めようとする人たちに対峙する際、覚えておくべき最も重要な言葉は「No」です。重要なのは、求められていることがどんなに退屈で、露骨なものに感じられたとしても、お客様に耳を傾け、最も必要とされることに注力することです。魅力的なものに惑わされてはいけません。

しかし、注意も必要です。輝かしいものの中には、選択しなくてはならないものもあります。もし、競合他社がそれを既に導入していたとしたら、お客様は、貴社にもそのサービスを期待するかもしれません。

10. 将来のコネクテッド・テクノロジーに注目

IoTは小売業に大きな影響を与えます。これまでに台頭したスマート・プロダクトの一部については懐疑的ですが、新たなショッピングの方法が生まれ、小売業に影響をもたらす可能性があると確信しています。例えば、腕時計やTVからのショッピング、さらには商品自体が小売エコシステムを形成し始めるようになるでしょう。商品が自動的に消耗品を発注する時代には、小売業の役割は 何だといえるでしょうか。全てが予測通りになるかは、分かりませんが、可能性を見極め、その影響に対して備えることが重要です。