マクラーレンにおける技術イノベーションの加速

2017年5月

マクラーレン・テクノロジー・グループ CIOクレイグ・チャールトン氏が、ITがいかに性能改善、イノベーション、顧客経験価値、そして戦略的パートナーシップを牽引しているかについて語ります。

マクラーレン・テクノロジー・グループ CIOのクレイグ・チャールトン氏は、エンジン・サプライヤーのホンダと協力し、マクラーレンの性能改善に取り組んでいますが、重要な課題はレースからは離れたところにありました。2015年の入社以降、彼の責務は、100人以上の部下を指揮し、卓越したパフォーマンスによって同グループ全体を長期的に評価される会社にすることです。

マクラーレン・レーシングは、イギリスに拠点を置く4事業の内の1つにすぎません。他には、高級市場向けに高級スポーツカーを製造するマクラーレン・オートモーティブ、レース分野の技術イノベーションを医療・金融サービス、交通など他の市場で活用するマクラーレン・アプライド・テクノロジーズ、そしてグループ全体のイノベーションを紹介し、パートナー各社との関係を強化するマクラーレン・マーケティングがあります。

チャールトン氏は、可能な限りグループ全体で共通のインフラを構築することに日々取り組んでいます。財務、人事、その他の部門全体がつながった、共通のビジネス・プラットフォームが必要ですが、それぞれがうまく機能するようにしなければなりません。同時に、各事業の戦略的優先順位にも目を向ける必要があります。レーシング部門において、ITソリューションは勝利に必要な要素の一つです。レーシングカーは1万5千から2万点の部品で構成されており、そのうち85%が、シーズン終了時までに新しい部品に切り替わっていきます。レーシング部門は、ビスポーク型(特別仕様)の製造組織のようなもので、高い生産能力を維持しなければなりません。システムと作業指示の簡素化が必要不可欠です。

他の事業部門でのIT要件についてですが、例えばオートモーティブでは、ウェブサイトやショールームから、購入、ドライブ、販売後のサポートまでのあらゆる過程で、お客さまに素晴らしい体験をしていただくことが重要です。アプライド・テクノロジーでは、技術イノベーションを他の市場の製品やサービスに応用し、最終顧客に届くまで、製品やサービスに対して適切なサポートを行っています。マーケティングでは、従来のCRM業務同様、パートナーシップを深め、活発にさせることが重要です。

マクラーレンでは、既存のテクノロジー・サプライヤー各社との取引だけでなく、スポンサー企業ともマクラーレン・グループと意味のある業務関係を構築しなければなりません。車にロゴを記載するだけの話ではありません。手を取り合って真の技術イノベーションを創出するのです。

クラウドの先を行くスピード

他の様々な技術要件も考慮しなければなりませんが、クラウドとモビリティがグループの技術戦略の最前部、そして中核に据えられています。クラウドは単に費用削減のためのみではないと考えています。コスト削減策ではなく、変革を起こすものなのです。我々にさらなる俊敏性を与え、災害復旧に備え、レガシー・テクノロジーへの依存を低減してくれるものなのです。

毎時300kmでコースを駆け抜けるプロトタイプ車を、年に21回、毎回違う国に送るのです。レースのある週末は、コースを走る車に搭載されている300余りのセンサーからイギリスの作業拠点に100GBのデータが確実に送信されるようにしておかなければなりません。イギリスの拠点では空気力学、車体のセットアップ、そして戦略などの重要な決定が全てなされます。また日本ともライブでつなぎ、ホンダがリアルタイムでエンジンをモニタリングしています。強固なネットワークと堅牢なインフラが、レースが行われる週末に求められます。水曜にMultiprotocol Label Switching (MPLS) ネットワークを立上げ、月曜には閉じます。レース期間中は、10分間のサービス・レベル・アグリーメント(SLA)で作業をしています。また、接続のセキュリティも確保しなければなりません。パブリック・クラウドや、プライベート・クラウド・ソリューションの活用を進めていますが、ハイブリッド環境全体を包括管理できるクラウド管理プラットフォームを採用しています。

最後に、マクラーレンでは、high-performance computing (HPC)を必要としています。シーズンごとに毎年118億件以上のデータが生み出されています。車のスピードやコーナリング向上のための分析に必要な履歴データは1993年までにさかのぼり、その数は、1兆件以上あります。現場で使用しているクラウドに加えて、HPC向けのセキュアなクラウド・プラットフォームの導入を検討すべく、あるパートナーと検討を開始したばかりです。分析を開始する際に、HPC上の複数のコアを活用し、終了すればコアの稼動を停止します。

今後の技術発展

オートモーティブの事業では、他の自動車メーカー同様、マクラーレンも自律走行車の検討を進めています。しかし、同社では、高級スポーツ・ブランドに、よりメリットとなる方法を考えています。マクラーレン車をコースに運んで、弊社のテストドライバーであるクリス・グッドウィンのAIバージョンを立ち上げ、プロのような運転方法を教えるのです。徐々に様々なコントロールをユーザーに与えて、その人がドライビングを習得できるようにします。

アプライド・テクノロジーでは、事業拡大につながる将来的な技術開発にも目を向けています。レーシングから得たデザインやシミュレーション、性能などの技術的なノウハウを革新的な形で他の業界に活かそうとしています。例えば、カーボンファイバーとヒューマン・テレメトリのノウハウを使い、自転車メーカーのSpecialized社と共同で世界最速で空気力学を最大に活用したレーシング・バイクを開発しました。また、ヒューマン・テレメトリと高速のデータ・スループットを活用し、バーミンガムこども病院の作業効率最適化にも取り組んでいます。さらに、大手鉄道会社と共にIoT技術の導入を行なっており、鉄道市場で最も先駆的なWiFi技術を展開しています。