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IoT活用機会の実現

2017年8月

IoTはあらゆる部門において、組織を変革しています。ユーロスターティッセンクルップピアッジオおよびBTといった企業でデジタル・リーダーを務めている人たちが、テクノロジーがいかにビジネスを拡張していくかについて紹介します。

モノのインターネット(IoT)が示す可能性は、特定の業界に限ったものではありません。多くの業界がIoTによる潜在的なメリットに興味を示しているものの、アプローチや動機はそれぞれ異なっています。数年を費やして賢明に戦略を立ててきた企業もあり、進化するテクノロジーの動向に予期せず取り込まれた企業もあるでしょう。しかし、彼らの体験にはひとつ共通点があります。それは、IoTは企業を根底から覆すものであるという考えです。

ユーロスター:線路上で活用するIoT
イギリスとヨーロッパ大陸とを結ぶ国際列車会社であるユーロスターは、最近になって始めて、IoT技術の戦略的な可能性を検討するようになりました。「いつのまにか気づかないうちにそっと近寄ってきたのです」と同社でデジタルを統括するニール・ロバーツ氏は述べています。ロバーツ氏のチームは、これまでウェブサイトやアプリ、ディスプレイボード、チケット、車内エンターテイメントなどマーケティング主導型、顧客向けのデジタル・サービスの充実を図ってきました。

オンライン分野を数年かけて成熟させてきました。様々なデータの転送方法により、事業の売上やマーケティングサイドの業務もかなり可視化できました。しかし、運用の分析はほとんど手つかずのままでした。3年ほど前までは、定期的にファックスでやりとりをしている部署もありました。

同社は、老朽化した車両を最新型のものに置き換える段階で、IoTのメリットを初めて理解しました。電車のライフサイクルは約30年なので、そう頻繁に変えるものではありません。古い車両は、従業員同士が、昔から培ってきた知識でメンテナンスを行っていました。しかし、新型車両はF1のレーシングカーのように、コンピューターを搭載し、WiFiやテレメトリー(遠隔計測措置での測定結果をコントロールセンターに送信すること)にも対応できます。

現在では、車両にリアルタイムの診断機能を搭載しています。「ドアが効率的に操作されているか」「ギアボックスがオーバーヒートしていないか」などを遠隔で監視することができます。適切なタイミングで新型車両を購入したことによって、以前は不可能だったことが可能になっているのです。

また、問題分析を活用してオペレーションを改善しました。それは、ブランディングやマーケティングよりも顧客満足につながっています。車両が故障すると、程度の差はありますが、お客様にとっては不運なことです。現在は、障害が発生する前に対応できるよう、予測型エンジニアリングを検討しています。これによって、車両の対応率が高まり、より多くのお客様を定刻でお送りすることができます。これは大きなメリットをもたらしました。具体的な戦略計画を持たないまま、かなり素早くIoTに着手し、ここ2、3年の間に実績を積み重ねてきました

ティッセンクルップ・エレベーター:将来性豊かなモバイル保守
ティッセンクルップ・エレベーターは、グローバルなエレベーターおよびエスカレーターの保守を専門とする、創業200年の企業です。IoTによりサービスの改善と運用コストの削減が可能になると早期から考えていました。ティッセンクルップ・エレベーター イギリスおよびアイルランド地区のCEOである、ウィルヘルム・ネーリング氏は次のように語ります。「弊社の主力事業はエレベーターの保守です。これまで、エレベーターが故障するとエンジニアを現地に派遣して、故障箇所を確認していました。そして、必要な部品を取りに戻り、やっと修理に取り掛かっていました」

IoT対応の部品をエレベーターに装備することで、ダウンタイムを短縮でき、効率と生産性も大幅に改善しました。情報を事前に全て把握できれば、故障原因が明確になり、かなりの時間を削減できます。

ところが、そのビジョンを実現するために、テクノロジー企業と緊密に連携を取り、アイデアを受け入れることは、苦労の多い課題でした。ティッセンクルップは、以前はITへの投資にかなり保守的で、こうしたイノベーションに胸襟を開き、他社とノウハウを共有するまでは、大変な努力が必要だったのです。

しかし、テクノロジーを通してパートナーシップを組むことが実を結んでいます。3年前にマイクロソフト社と協力し、IoT対応のエレベーターを監視するMAXクラウド・ベースのIoTシステムを開発しました。それ以来、同社のエレベーター稼働時間は50%改善しています。このことが同社の取り組みをさらに後押しし、IoTへの意気込みをさらに高めました。予測型メンテナンスに機械学習アルゴリズムを活用する計画もあります。部品を故障前に取り替えることができれば、信頼性を99%まで高めることができるからです。

イノベーションにオープンでいることが同社の継続的なIoT変革のカギになっています。そういった姿勢で情報を共有することで、これまで思いつかなったプロジェクトやパートナーシップが数多く生まれてきます。それは、エキサイティングな旅路のまだ始まりのように感じます。

ピアッジオ:二輪車のコネクティビティ
ピアッジオは、イタリアのスクーター、バイク、ミニバンのメーカーであり、VespaやApe、Moto Guzziなどの象徴的なブランドを保有しています。顧客向け機能を継続的に改善し、車両の安全性をさらに高めるためにIoT技術の導入を進めています。同社の上級副社長兼戦略的イノベーションの責任者であるルカ・サッチ氏は、「リアルタイム・データと予測分析を組み合わせたコネクテッド車両の安全性向上に取り組んでいます。また、遠隔ロックや故障診断の画面表示など、顧客向けIoT対応の機能を高めています」と語っています。

車両から送られてくる、より多くの情報を活用し、開発を繰り返し行うことで、商品を迅速に最適化できます。

自動車業界の多数の企業が自動運転車の開発を考えていますが、Piaggio社は今のところ考えていません。しかし、コネクテッド・バイクについては他にもいろいろなアイデアがあります。自律走行する二輪車は想像しにくいですが、周辺の道路の状況を具体的にドライバーに示したり、他の車両にモーターバイクやスクーターが近づいていることを知らせたりするなどドライバーの能力を拡張することは非常に価値のあることです。

BT:モノの追跡や行動の監視
イギリスに拠点を置く大手通信企業BTは、複数の分野でIoT関連にリソースを投入し続けています。車両のネットワーク・ケーブルなどの追跡にIoT技術を活用し、物理的資産の新たな可視化を可能にしています。また、重大な障害をより早く特定し、修正することで顧客サービスを改善しています。一方、個人向け店舗では、IoTセンサーによる顧客エクスペリエンスの改善に取り組んでいます。

B to Bでは、保険会社向けにIoTを活用した運転スタイルや距離など従量課金制の自動車保険ソリューションを提供しています。顧客の車両に合わせたテレマティクス・ボックスを活用し、BT EEのモバイル・ネットワークを経由して、ドライバーの挙動データを保険会社に伝送しています。このテクノロジーにより、免許を取得したばかりの若いドライバーによる重大事故が40%減少し、こうした人たち向けの保険料を30%削減できました。

「しかし、IoTによる変革はビジネスモデルだけではありません。組織内のスキルを持つ人材の適正配置にも及んでいます」とBTのIoT戦略担当部長であるギョーム・サンピック氏は語ります。IoTの重要なメリットの一つは、人材とスキルセットを組み合わせて、企業の事業を大きく変革させる役割を担っていることです。ネットワーク思考、ソフトウェア思考、IT思考、そしてオペレーション思考をほどよく組み合わせて機能させることが必要になります。

・本記事は、ロンドンで開催されたTechXLR8 2017のニール・ロバーツ氏、ウィルヘルム・ネーリング氏、ルカ・サッチ氏、およびギョーム・サンピック氏の講演に基づき、作成しています。