写真:スコット・ウッドワード

ビジネス革新の成功に向けた設計図

2018年2月

破壊的変化という存続を懸けた課題に対し、組織は異なる2つの側面に渡ってビジネス革新を進めていく必要があるとイノサイト社のスコット・アンソニー氏は語ります。

20年前、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授は、多くの大企業が失敗の運命を辿る理由について、ベストセラーである著書「The Innovator’s Dilemma(革新者のジレンマ)」で明らかにしました。企業は成長するにつれて、周辺のプロセスを固め、効率化、低コストを目指します。しかし、その過程でイノベーションの本質から徐々に離れてしまい、その結果、新たなイノベーションを駆使した挑戦者がもたらす破壊的変化にさらされてしまうのです。

こうしたプロセスは、以前であれば数年または数十年を要していたかもしれません。しかし、今日において、企業はデジタル革命という荒海の真只中を進むことで、これまでにないスピードと、大きなスケールの変化に直面せざるをえないのです。クリステンセン教授が共同創業者であるコンサルティング企業、イノサイト社のマネージング・パートナー、スコット・アンソニー氏によると、あらゆる業界の企業が、破壊的変化という存続を懸けた課題に直面しています。

アンソニー氏は、同様の課題を数百もの企業で見てきました。その結果、この荒海を無事乗り越える最大の可能性は、「dual transformation(2つの革新)」と呼ぶアプローチの実践にあると確信しています。

真の大改革

まず、完全なビジネス革新を目指すべきです。「革新の定義とは、形式または実体が変化すること。今、実施しているような単なる改善や迅速化、低コスト化ではありません。これらも重要ですが、革新とは、今の状態を根本的に変えること、つまり企業が、まるで青虫から蝶へと変態するように変化することなのです」。

しかし、革新は2つの側面に渡って取り組まなければなりません。「革新Aは、既存のビジネスを再配置し、より弾力性を持たせることです。革新Bは、未来の成長エンジンを創り出すことです。この両方が重要であり、かつそれぞれが異なった役割を持っています」とアンソニー氏。

著書「Dual Transformation: How to Reposition Today’s Business While Creating the Future(2つの革新:未来を創造し、現在のビジネスを再配置する方法)」に詳述されている通り、このアプローチは、2つの側面を切り離し、別々に取り組んだ場合にのみ成功します。「大きな間違いの一つに、そしてこれはよくあることですが、この2つを組み合わせてしまうことがあります。2つを明確に区別して管理しないと、どちらか一方は失敗してしまいます。大きな成長機会を逃す、もしくは、接近する最も重大な破壊的脅威を回避できなくなります」。

つまり、会社のオペレーションを効果的に2分割するのです。「従来と異なるマインドセット、メトリックス、アプローチ、さらには組織構造がなければうまくいきません」。

2つの革新において、構造的な切り分けが不可欠です。しかし、それでも既存の能力や資産を活用し、現在と将来の会社をつないだり、新たな市場でも競合に不当な優位性をもたらすものは必要だとアンソニー氏は論じます。

「注意が必要なのは、完全に分断されたアプローチは望ましくないという点です。現在の事業と将来の事業のつながりを注意深く創る必要があります。現在、行おうとしていることは、いわば、大企業だからこそできること、つまりスタートアップ企業ができないことなのです。組織を分断してしまうくらいなら、スタートアップ企業に投資した方が良いと言えるでしょう」。

「2つを明確に切り離しつつ、完全に分断されないよう慎重にバランスを保てば、イノベーターのチャンスを活用できるようになります」。

このように2つの特性を持つ組織には、新しい形のリーダーシップも求められます。「リーダーの仕事は、新たな方向性を選択し、両方の組織に目的を持たせることです。また、2つの組織の間に必ず生じる緊張感を維持させることです」とアンソニー氏は語ります。

座礁するビジネス革新

アントソニー氏は、2つの革新という航海の中で、起こり得る予測可能な危機についても、多く語っています。

コミットメントの危機:経営陣が革新の両方の側面に対し、十分なリソースを真剣に割り当てようとしているのか。

対立の危機:革新Aのグループが革新Bに対して、またその逆において、妨害行為を行う。

アイデンティティの危機:組織の基本的な性質の変化から生まれる。

「だからこそ、2つの革新ではリーダーシップが非常に重要なのです。もちろん、構造やシステム、戦略を整えておく必要はありますが、会社のリーダー陣がこうした危機に、絶えず警戒し、対応できるよう準備しておかなければなりません。リーダーが直面する最も厳しい問題になるからです」とアンソニー氏。

「そして、それぞれのグループに、何をして欲しいのかを考える必要があります。両者は、これまで以上の精度で、今ある事業を進める必要があります。また、同時に未来を創り出さなければなりません。途方もなく困難な作業ですが、十分な見返りが期待できます」。

異なる文化の中で

アンソニー氏は、2010年にシンガポールに赴任して以降、拡大を牽引してきたアジア太平洋地域で、イノサイト社が現在進行しているお客様の2つの革新の例を挙げています。

「典型的なアジア企業は、同規模の西欧企業よりも階層的で、このことこそ、イノベーションや破壊的変化を目指す上での本当の課題になり得ると言えます。というのも、組織の最上級にいる、最もベテランな人たちは、この意思決定には全く適していないからです。革新を成功させたいのであれば、階層を逆転させ、組織の下部、もしくはより最前線に近い人たちのエネルギーを活用すべきです」。

アンソニー氏から見て、革新を大胆かつ首尾よく実行しているアジア企業の一つが、東南アジア最大の銀行であるシンガポールのDBSです。「DBS銀行は、プロセス重視の国で、規制が多く保守的な業界に身を置く企業ですが、コンプライアンス重視の文化からイノベーションと実践の文化へと移行しつつあります」。

10年前に革新の舵を切って以来、ピユシュ・グプタCEOは、技術・オペレーション・チーフであるデビット・グレッドヒル氏と共に「バンキングを楽しくする」会社を目指して、取り組んでいます。

アンソニー氏は次のように述べています。DBS銀行は、『頻繁に実験を行い、23,000人のスタッフを擁するスタートアップ企業のような文化を作りたい。世界で最高の銀行になるためには、あらゆる取り組みに機敏性と実践を融合させる必要がある』と話していました。

「まだ道半ばですが、DBS銀行では新たな試みが行われており、オフィスも解放的で、新しいアイディアを持ったインキュベーターを集めています。イノベーションのエネルギーに溢れているだけでなく、それらは放出され、増幅しています。その結果、DBS銀行は今後何年にも渡って、シンガポールに多大な影響を与える企業になるでしょう」。