写真:クリストファー・レーン

競争の新たなデジタル・ダイナミクス

2017年10月

事業戦略のシナリオはデジタル革新によって書き換えられています。ミュンヘンで開催された富士通フォーラム2017基調講演のスピーカーである、コロンビア大学 ビジネススクールのリタ・マグレイス教授が、主要な成功要因について詳しくご紹介します。

リタ・マグレイス教授は、ニューヨークのコロンビア大学 ビジネススクールにおける戦略・イノベーションの研究者であり、世界で最も影響力のあるビジネス・シンカーの上位10位内にランクされています。彼女は、多くのことは典型的な経営会議の議題から読み取ることできる、と語っています。

自社のイノベーション戦略に頭を抱えたCEOから電話がかかってきた際には、マグレイス教授はまず、直近の経営会議の議題を確認することからコンサルティングを始めます。

そして、議題の中からイノベーションや新技術、新たな方向性に関連するテーマを探しますが、真剣にイノベーターになりたいと言っている会社でさえも、イノベーションに関しての議題は18番目や20番目になって、ようやく『製品安全データシートの更新』の次あたりで登場します。

これに対してマグレイス教授は、会議は新しく大胆で実験的な話から始めること、とアドバイスします。例えば、四半期ごとのオペレーション・レビューの場において、3Dプリント設備の試験が成功し、大きな可能性があることを会議の冒頭に触れていれば、イノベーションは難しく、リスクもあり、失敗しがちで予測不可能であるということを認めつつも会社が熱意を持って取り組んでいると伝えることができるでしょう。

こうしたリーダーシップは、トップから発揮されなければなりません。なぜなら、競争優位性を模索する機会は、短くなっているからです。

マグレイス教授はこの点について、数年前のハーバード・ビジネス・レビューに寄稿したペプシのCEO インドラ・ヌーイ氏の話をよく引用します。持続可能な競争優位性を語れるようになるには、かなりの時間を要します。しかし、このサイクルは短くなっています。以前は、自社を改革するのは7年から10年ごとという考えでしたが、今ではその周期が2年から3年になっており、常に改革を行う必要があります。

企業は、適応サイクルの短縮を喜んで受け入れるべきだと、マグレイス教授は繰り返します。そして、何よりもデジタル技術から生まれるあらゆる機会とディスラプションを認識し、迅速かつ反復可能な能力としてビジネス・イノベーションを生み出すことを経営陣に迫っています。

「物事の動きが加速すると、戦略はこれまで以上に重要になります」

世界はますますデジタル化し、競争の様相が変わってきています。また、戦略と経営の基盤となっている主要な前提条件の多くに疑問が投げかけられています。参入にはかなりの障壁があるものの、競争優位性を確立してしまえば、長期間持続可能であるというのが従来の考えでした。そして、多くの業界で、この考えが長い間、実証されていました。

しかし、現在は、まず変化のスピードが加速しており、次に、デジタル化が多くの業界の根底にある前提条件を根本的に変えています。

これは、競争優位性の本質を抜本的に変化させているのに等しいです。多くの経営陣がかつてビジネススクールで、戦略の主要な目的として学んだ、持続可能な競争優位性の世界から離れ、迅速かつ度重なる改革が鍵となる短期優位性(transient advantage)の世界へと移っています。

しかし、それは戦略が不必要、または意味がないという訳ではありません。企業は、変化が加速する環境において、単に様々な事を試し、その中で成功した事を続ければ良いのでしょうか。これは、イノベーションにおいては優れた方法とは思いません。誰も際限なく試し続けるだけのリソースは所有していませんし、戦略は競争と限定的なリソースにおける条件下で最善の選択肢を決めるためにあるからです。だからこそ、物事の動きが加速すると、戦略はこれまで以上に重要になるのです。

マグレイス教授が出会うビジネス・リーダー全てが、こうした新たな流れを受け入れる準備ができているわけではありません。短期優位性(transient advantage)、特にデジタル主導のものを考える際、受け入れに複数の段階があります。多くの経営陣は、これが新しい働き方で、企業や自分たちへの期待値が大きく異なることを認識する準備ができていません。

こうした否定派がいる一方、現在起きていることは認知しつつも、「堂々巡りをして、いろいろな事を多く試すことに熱中している」人たちもいます。この段階をマグレイス教授は「イノベーション劇場」と呼んでいます。イノベーションを目指す精神は、人員をシリコンバレーやテクノロジー・ハブに派遣し、インスピレーションや新たなマインドセットを模索するといった行動に特徴的に表れています。しかし、最終的な勝者は、自社の精神にイノベーションのプロセスを焼き付けようと熟慮する企業です。