Image: Ben Gold

都市のデジタル化が人をエンパワーする

2016年8月

プランナー、デザイナー、テクノロジー企業といった明日のスマートシティを作る人達は、人を中心としたアプローチを適用する必要があります。

何世紀もの間、都市の未来を形作るのは、都市プランナー、設計者、社会理論家の仕事でした。しかし、今日、新しいプレーヤーである、技術者がこの分野に参入しました。スマートシティは、コンピュータ科学者にとって、夢の実現です。最先端の都市は、どこに居ても情報が得られる環境、リアルタイム接続、相互作用、コミュニケーションによって実現されます。ユビキタス技術は都市空間のあらゆる部分に満ちあふれ、都市を生きたコンピュータのようにしています。その結果、都市の最適化は、すさまじいスピードで進展しています。あらゆる情報が、瞬時に生みだされ、都市の機械を制御し、最適化しているのです。

デジタル技術の適用領域は、無限にあります。廃棄物や水道・公共インフラの管理、輸送、エネルギー消費といった分野で、IoTやビッグデータの技術は、世界中の都市や市民に対して、広く深い影響を与えます。しかし、このようにスマートシティが進化するとしても、その変化をどのように調和させるかについては議論が必要です。これまでのスマートシティのアプローチは、テクノロジーを重視しすぎるか、都市全体の管理を強制するもので、市民の視点から見ると十分なものになっていませんでした。新しい都市では、デジタル・システムが私たちの経験、交通、社会生活に大きな影響を与えますが、住民とコンピュータの間を流れる大量の情報が行き来するスマートシティのコンセプトを、人を中心に考えて練り直す必要があります。

ユビキタス・コンピューティングと都市規模のデジタル・ネットワークという2つの異なるアプリケーションが出現しています。これは、テクノロジー主導の最適化よりも、人のエンパワーメントに重点をおく都市のビジョンです。都市空間のあらゆるところに何百万ものセンサーを置いてデータを収集し、ネットワークに接続されたアクチュエーターやアプリケーションに情報提供する、『センシングする都市(senseable cities)』なのです。

大規模なコンピュータに都市の制御を任せるのではなく、人に合わせた都市の最適化が必要です。また、デジタルと実世界の融合、システムと市民の相互作用が必要になります。

市民参加

人中心に最適化されることの最もエキサイティングな側面は、IoTが市民参加を可能にする、すなわち、都市においてデータを活用して市民が新しい役割を果たせるということです。

ボストン市が主催する市民参加型プロジェクトのニュー・アーバン・メカニックス(New Urban Mechanics : NUM)の例を紹介します。NUMで開発されたシチズン・コネクト(Citizens Connect)というスマートフォン・アプリを使うと、住民は街の目となり耳となり、自分の街を守るプロセスに携わることができます。実際、都市住民は街の保守作業者になることができ、危険な穴や壊れた街灯のようなインフラの問題を代行処理し、以前なら修理チームの派遣に市職員による確認、査定を必要としていた所で、市民が積極的に問題に関するデータを収集、共有し、効率的に保守要員を呼び出すことができます。今では、シチズン・コネクトと関連アプリによる市民サービスが、市内の全サービス要求の28%を占めています。都市で何が起こっているのかを理解し、問題を解決し、改革していくには、つながりを利用することが重要なのです。

都市の基本的な骨格が、IoTによって変革するとは思いません。むしろ都市に住むことによって得られる経験が変わるのです。輸送業界で何が起こっているのかを見てみると、例えば自動運転テクノロジーは、実用段階に入っています。自動運転の、最もエキサイティングな側面は、ドライバーが移動中に他のことができるということではなく、自律走行車の共有によって輸送効率が大きく上がることです。

例えば、運転中に堂々と文章を書くことができます。しかし、もっと興味深いことは、朝に自動運転車でオフィスに向かうことができ、その後、あなたがオフィスにいる間は誰かがその車を使えるのです。すなわち、公共の交通と私的利用の交通輸送を組み合わせたシステムになるのです。

MITで構築したモデルによると、ロンドンやシンガポールのような大都市では、今日の道路上の車の台数よりも20%少ない量で、誰もが選んだ目的地に行くことができます。20%は理論上の最小値で、更に台数が減らせると考えています。それでも、私たちの未来に起こりうる驚異的な変化を示唆しています。

“デジタル革命は、都市のメリットを損なうものではなく、両者はますます密接な関係になる。”

1990年代の未来学者の多くは、インターネットが都市に及ぼす影響を違った方向に考えていました。人々は、ウェブと接続性のおかげでどこでも働くことができ、また、そうしようと考えていました。そのために、都市はもう必要ではないと考えていました。その頃に広まりつつあった意見は、距離は消えていくというものでした。インターネットの接続網が広がるにつれ、距離に関係するものは失われていくだろうと考えられていました。そして、情報をどこにでも誰にでも瞬時に送れるのであれば、全ての場所が同等であると結論づけられました。

ネットワークが物理空間を取り込んだり、置き換えたりするのではなく、両者はますます密接な関係になってきています。要するに、デジタル革命は、都市のメリットを損なうものではないし、都市と無関係なものでもありません。インターネットのおかげで、どこでも働き、いつでもつながることができますが、それでも他の人々と一緒にいること、豊かな出会いやアイデアの交換を我々は望んでいます。究極的に、それが都市の存在理由なのです。

?カルロ・ラッティ・アソーシエイトの設立パートナーであるカルロ・ラッティは、ミラノで開催された富士通ワールドツアー2016にて、基調講演を行いました。彼の最新本である、The City of Tomorrow: Sensors, Networks, Hackers and the Future of Urban Lifeは、マシュー・クローデルと共著で出版されています。