Photography: Jens Kristian Balle

量子が創るコンピュータの未来

2018年6月

物理学理論からビジネスの現実となりつつある量子コンピュータ。1QBit社のCEOアンドリュー・フルスマン氏が、世界の超難問を瞬時に解いてしまうコンピューティングの革命について語ります。

IT業界には、地球温暖化、難病治療、高齢化社会、大都市のインフラや交通などグローバルな課題を新技術で解決しようとする意欲的な大企業がありますが、そこには高い壁が立ちふさがっています。

大方の予想ではムーアの法則(集積回路の実装密度はほぼ2年ごとに倍増する)が2020年ごろに限界に達するとされており、コンピュータの演算能力が飛躍的に伸びないかぎり、上記の大目標は実現できそうもありません。

量子独特の振る舞いを利用した量子コンピュータは、その演算能力を指数関数的に飛躍させる革命的技術。これまで全く不可能とされてきたソリューションへの扉を開くものとして期待されています。

D-Wave Systems社のようなスタートアップ企業からマイクロソフト、グーグル、富士通のような大企業まで、IT業界各社は次世代コンピュータの開発にしのぎを削っており、最終目標に至る前の技術開発でも熾烈な競争が繰り広げられています。

そうした業界事情に誰よりも詳しいのが、量子コンピュータ向けソフトウェアを開発する1QBit社のCEO、アンドリュー・フルスマン氏。ダウ・デュポン、バイオジェン、RBS、アリアンツといった企業は、同社のプラットフォームを用いて初期段階の実験や量子コンピュータの評価を行っています。フルスマン氏によれば、2018年はさまざまな意味でITに革命が起こる年。数々のブレイクスルー、市場破壊、新たな難問を生み出しながら新しい技術がビジネスや社会を揺るがすだろうと予想しています。

革命の種

1980年代に物理学者たちが初めてデジタルプラットフォームでの量子コンピュータを提案して以来、その実現可能性は大きくなってきています。特にこの10年、膨大な人材、資金、知的資産がそこに投入され、量子コンピュータは単なる理論から現実のものになろうとしています。しかし、なぜそれほどの投資を必要としたのでしょうか。

「こうしたデバイスの元となる部分を作るのは本当に難しいのです」とフルスマン氏は話します。これまでのコンピュータではビットの基本部分は、基本的にシリコンなどの半導体を使った電磁的on-offスイッチ。しかし、量子コンピュータにおいては同時に0と1の状態となることができる量子ビットを生み出さなければならず、これはまさに大仕事です。さらにその上で、不安定であることの方が多い量子ビットを結び合せるのは至難の技ともいえます。

「膨大な可能性を秘めたこの次世代コンピュータの基本ユニットをいかに創るか、わたしたちはみなその最良の方法を探しているのです」とフルスマン氏は話します。

しかし、マシン上で50近い量子ビットを連結できるようになったいま、量子コンピュータ誕生の可能性が見えてきました。「これまでの苦労が報われる転換点が近づいています」とフルスマン氏は話します。「必要なものはすべて手に入るので、なにが起こるかわかりません」。

「既存のスーパーコンピュータでは、これ以上の数の量子ビットの演算を検証することができません。その意味で、量子超越性はすでに達成されてしまっているのかもしれません」。

あらゆる分野で量子コンピュータが従来型コンピュータを打ち負かすようになる日は近く、すでに兆候が見られるとフルスマン氏は話します。「量子超越性が、まだ先の話だとインタビューで言うのは、今回が最後でしょう」。

従来型コンピュータで行える量子シミュレーションが限界に達し、量子コンピュータは新たなレベルに達しています。「世界最大級のスーパーコンピュータは55量子ビットほどの演算能力をもっていますが、そこから量子ビットがひとつ増えるごとに演算処理量は倍増していきます」とフルスマン氏は説明します。2016年には一桁台だった汎用量子コンピュータの量子ビットは、2017年には約50、今年は72にまで増えています。

「わたしたちはすでに量子超越性の時を迎えているのかもしれません。量子ビットはすでに従来型コンピュータの演算能力を上回っています」とフルスマン氏は話します。「量子ビットが200あたりにまで増えれば、産業用の問題などを扱えるようになります」。