Photography: Jens Kristian Balle

デジタルアニーラ:量子コンピュータへの一歩となるか

2018年6月

量子技術の実用化が目前に迫るなか、企業にとって、いまからその新技術への対処法を考えておくことが重要だと1QBit社のアンドリュー・フルスマン氏は語ります。

ほぼ40年近くにわたる研究開発の末、量子コンピュータはいま実証段階に入っていますが、その実現に向けては根本的に異なる二つの進み方があり、これは議論の対象にもなっています。

ひとつはサーキットモデルと呼ばれるもので、従来型コンピュータのゲートのようなものを使ってデバイスを構築するやり方です。これは目的を限定しない汎用型量子コンピュータの開発者たちに支持されています。もうひとつは量子アニーリングと呼ばれるやり方で、自然界ですべてのものが最小エネルギー状態に向かう傾向を利用するこのアプローチは、組み合わせ最適化問題を解くのに優れています。

「当初、量子アニーラは簡単に作れましたので、量子コンピュータのはまりどころは最適化問題だといわれていました。そこでの話題は、それを解くためにどうやって物理現象を利用するかということでした」とバンクーバーに拠点を置く1QBit社のCEOであるフルスマン氏は話します。

導入規模を選べるような汎用量子コンピュータはまだ先の話だとしても、量子技術の発展はすでに一部で商業的な動きも見せています。例えば、カナダのD-Wave System社はこの数年、断熱量子コンピュータを販売し始めており、その最新モデルは2,000(物理)量子ビットを搭載しています。この方式のマシンは回路ベースの量子コンピュータと異なり、その数学や理論も一般的なものではありません。しかし、これまでにあったコンピュータよりずっと早く最適化問題を解くことができるのです。

また、量子アニーリングという技術を使えば従来型のコンピュータ上でもソフトウェアを使って量子マシンのような演算を行わせることができます。富士通はトロント大学と協力してASIC(特定用途向け集積回路)チップに量子の着想を得た設計を施し、組み合わせ最適化問題を解くデジタル・アニーリングマシンを開発しました。

フルスマン氏はその大ファンだといいます。「富士通のデジタルアニーラは従来型コンピュータのノウハウと技術を総動員して量子アニーリングのような問題解決能力を提供してくれます。量子コンピュータに匹敵する演算処理を目指しており、ユーザーはこのマシンを通じてこれまでとは入出力のあり方が異なる問題の扱い方を学ぶことができます。この方向性の量子コンピューティングに向けた第一歩と言えるでしょう」。

デジタルアニーラや量子アニーラは最適化問題を解くことを得意としていますが、フルスマン氏はそこに産業界に対する量子ITの有効性を見ています。例えば、物流などの複雑な配達ルートの最短化、金融での投資やポートフォリオ管理の最適化などへの適用が考えられます。「ビジネスでは常に最小のリソースで最大の成果を得ようとします。当然、最適化の方法が求められるのです」。

フルスマン氏はそこにはもうひとつ大きな利点があると見ています。「ASICを利用して目前の問題を解きながら、次世代コンピュータの超高速演算のやり方について学ぶことができるのです。まさに一挙両得です」。

量子技術ビジネスの共創

今後登場してくる量子関連のシステムやアプリケーションを検証するため開発企業との協業を考えるなら、いまがまさにその時だといえるでしょう。「量子コンピュータの開発者はその使いみちまで考えてはいません。あなたの会社が量子技術をどう使うかについて、かれらは必ずしも理解してはいないのです。結局のところ、ビジネスについての認識が違うのです」。

そこで鍵を握るのは量子マシンの開発元とビジネス上の課題を抱えている企業との真の共創だと氏は話します。「共創することでその企業の課題に合わせてマシンを開発することができ、さらに互いの共通認識にしたがってソフトウェアやアルゴリズムを改良していくことができます」。

「いまから共創を進めておけば、10年後に突然量子マシンを見せられて、“これはすごい力を持っているが、あなたの会社にはどうも役に立ちそうにありません。というのも、そちらのニーズについては今初めて聞いたのですから”と言われないで済みます」とフルスマン氏は話します。

「会社の課題、システム環境、量子コンピュータの可能性といったものを、開発者と企業が共に理解してはじめて、予算と労力をつぎこんだ技術が役立つものとなるのです」。